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8月29日のまにら新聞から

マニラ港で艦内公開 空母化進む「いずも」

[ 2062字|2023.8.29|社会 (society) ]

海自最大護衛艦いずもがマニラ港で比日メディアに艦内を公開。同艦の機能などについて説明

(上)護衛艦いずもの飛行甲板上。手前のタイルはF35B着艦のため強化されている。黄色のセンターラインは同機の発艦のためにあらたに引かれた。右奥は米強襲揚陸艦USSアメリカ。(下)マニラ南港に寄港している護衛艦いずも(全体像)=27日、竹下友章撮影=27日、竹下友章撮影

 海上自衛隊は27日、初めて首都圏マニラ市に寄港した海自最大護衛艦いずもの内部を比日メディアに公開した。ヘリを最大14機搭載でき、5機同時の発着艦が可能な護衛艦いずも=2015年就役=は、「ヘリ空母」とも呼ばれてきた。それが20年度予算による第1次改修を経て、第5世代ステルス多用途戦闘機F35ライトニングの艦載機仕様F35Bの搭載が可能となった。21年10月3日には初めて米軍のF35Bの発着艦実験に成功。24年に控える第2次改修では、尖った船首部分の飛行甲板を矩形(くけい)にすることで戦闘機用の滑走路を延長。より空母の形に近づける。

 円形のヘリ用巨大昇降機で艦内から飛行甲板に上ると、そびえる船橋、甲板を地平線とする青い空が目に飛び込んでくる。まるでロボットアニメの出撃シーンのようだ。全長248メートル、全幅38メートルの大型艦の甲板は、まさに小型飛行場だ。

 左舷側の甲板を縦に走る黄色のラインは、F35Bの滑走のため改修時に引かれた。同機は垂直発艦も可能だが、助走によって揚力を得たほうがスムーズに発艦し燃料消費を節約できる。そのため、通常は向かい風も揚力として利用しながら、助走を付けて飛行するという。

 飛行甲板の後方の1画だけ、他の部分より若干色が異なる。第1次改修で垂直着艦する際に下方に吹き出すジェットに耐えられるよう新たに敷設した強化タイルだ。熱伝導が異なるため、触れると他のタイルより熱いのが分かる。

 操艦・指揮を行う艦橋内部に入ると、モニターが窓の上部にずらりと並び、操縦席は速力などを指示するためのボタンがひしめく。飛行機の操縦席のような印象だ。

 このようにシステム化が進み、レーダーや無線が高度化する中で、海自は旗信号や光信号など伝統的な交信方法も重視する。傍受技術の発達により、「無線通信は『相手方』(仮想敵)にこちらの情報を渡してしまうリスクも増えた」ため、視認できる範囲の味方艦船と連絡を取る伝統的な方法の必要性が近年高まっているという。

 ▽対照的な日米の装備

 「あれが寄港するためにマニラに来ている護衛艦さみだれが追い出されてしまった」(自衛隊員)。この日、護衛艦いずものすぐ横には、佐世保基地を母港とする米国の強襲揚陸艦USSアメリカ(257メートル)も停泊していた。いずもの甲板からは同艦の左舷が見え、垂直離着陸機V22オスプレイが7機、戦闘車を空輸可能な重輸送ヘリMH53Eスーパースタリオン3機に加え、「最強戦闘機」の一つと称されるF35B4機が威容を誇示していた。

 右舷側や艦内格納庫にも駐機できるため「さらに航空機を搭載している可能性がある」(同隊員)。離島奪還など海から陸への急襲作戦を目的とした同艦が軽空母としての機能も持つことを、いやでも理解できる。同時に、空対地・空対艦長距離ミサイルを装備できるF35Bをわざわざ飛行甲板上に駐機していることには、南・東シナ海で海洋進出を強める中国へのけん制の意図もうかがわれた。

 それに対し、いずもの飛行甲板には航空機は1機も見当たらない。理由を聞けば、甲板駐機すると潮風や雨にさらされ保守管理の面から好ましくないことから、自衛隊は艦内に格納するのを原則としているという。「今回何機のヘリを積載しているか」と尋ねたところ、哨戒ヘリSH60K(19・8メートル)が2機のみとの回答。海上保安庁の大型巡視船が搭載できる数と変わらない。その理由は「艦載機を増やすとその分国内運用するヘリが少なくなる」ため。

 限られた防衛アセットをやりくりする自衛隊の苦境が垣間見えると同時に、地域の平和と安定のためにプレゼンスを高め、国際法に反する航行に対しいわば「にらみを利かせる」意図で5ヶ月インド太平洋に派遣されている艦隊の旗艦の装備としては頼りない印象も受ける。

 ▽女性隊員40人

 約400人の隊員が乗るいずも。そのうち約40人が女性隊員だ。「他の船の女性隊員は1~2人くらいなのもざら。新しい船であるいずもは設計当初から女性自衛官の活用という方針が反映されていて、私たちも住み心地がいいですね」(女性自衛官)。女性自衛官の活躍状況については「自衛隊では、もうほとんどの職種で女性が配置されている」という。

 潜水艦に幹部として女性隊員が初めて乗ったのが2020年。また、初の女性将官となった近藤奈津枝海将補は、大湊地方総監部幕僚長などを経て、現在は海上自衛隊幹部候補生学校長を務めている。さらに、2016年に女性初の護衛艦長、2019年には女性初のイージス艦長を経験した大谷三穂1等海佐のような隊員もいる。

 また自衛隊では産休・育休の導入も進める。育休は女性だけでなく、「妻が主婦の男性隊員であっても関係なく育休を取得するよう奨励している」。ただ一方で、海自は一度任務に就いたら長期間帰宅できない性質を持つため、出産を契機に隊を離れる決断をする女性隊員もまだ多いという。(竹下友章)

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