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12月13日のまにら新聞から

「真実を伝え、権力者に責任を取らせる」 ノーベル平和賞授賞式で マリア・レッサ氏ら

[ 1390字|2021.12.13|社会 (society) ]

ノルウェー・オスロの市庁舎でノーベル平和賞授賞式が行われ、ニュースサイト「ラップラー」のマリア・レッサ氏と、ロシア紙「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ氏に記念メダルと賞状が贈られた

オスロで開かれたノーベル平和賞授賞式後、祝福のため集った人々を前にグランドホテルのバルコニーに立つ、比のマリア・レッサ氏とロシアのドミトリー・ムラトフ氏=10日(AFP=時事)

 ノルウェーの首都オスロの市庁舎で10日、ノーベル平和賞授賞式が行われ、ニュースサイト「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏と、ロシア紙「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長に記念メダルと賞状が贈られた。現在58歳で10年前にラップラーを設立したレッサ氏は、ジャーナリスト歴35年以上。 アジアの紛争地域や戦争地帯での報道や多くの災害取材を経験してきた。2人の受賞に世界各国や各界が祝福を寄せている。

 ラップラーは現政権が進める麻薬戦争や頻発する超法規的殺害に対し、調査報道スタイルで実態を明らかにしてきた。ドゥテルテ大統領はラップラーやレッサ氏を度々名指しで非難してきた。大統領府は12日午後8時時点で何の反応も示していない。10月のノーベル賞受賞者発表時にも、大統領府はコメントの遅れを指摘されていた。

 レッサ氏は授賞式の演説で「真実を伝え、権力者に責任を取らせるという私たちの価値観と使命に忠実であるために、多くの犠牲を強いられてきた世界中のジャーナリストを代表し、みなさんの前に立っている」とし、サウジアラビア大使館で殺害されたジャマル・カショギ氏やベラルーシが旅客機を強制的に着陸させて拘束したロマン・プロタセビッチ氏、香港の刑務所に収監中のジミー・ライ氏など、多くのジャーナリストの名を挙げた。また、同式典の36時間前には、元同僚だったジェス・マラバナンさんが、サマール州カルバヨグ市で頭部に銃弾を受けて殺害されたことにも言及した。

 比国内の状況については「ジャーナリスト以上に多くの弁護士が殺害され、ドゥテルテ大統領就任以降、ジャーナリスト22人に対して、弁護士は63人となっている。ラップラーが主導する人権運動『カレッジ(勇気)オン』のメンバーに加わっている人権団体カラパタンは16人が殺害された」と説明。デリマ上院議員が政府に説明責任を求めたことから収監が5年目に入っていることや、かつてレッサ氏が務めていたABS―CBNが昨年5月に放送免許を失ったことにも触れた。

 また「私たちの世界は情報の循環によって決定付けられている。今日の世界を表すコインの一方は昔からの門番であるジャーナリスムであり、もう一方は『神のような力を持つテクノロジー』で、嘘のウイルスを感染させ、互いの恐怖や怒り、憎しみを煽って対立させ、それによって世界中に権威主義者や独裁者が台頭してきている。ネット上の暴力は、もはや現実世界の暴力だ」と語った。

 「今日、私たちが最も必要とするのは、この憎しみと暴力を変えること。しかし私たちの情報生態系を最悪の状態に保つことで、米国のインターネット企業は莫大な利益を得ている」との批判も行った。

 ホンティベロス上院議員は10日、ビデオメッセージで「レッサ氏の受賞は私たちに決意を新たにするよう教えてくれた」とし「民主主義の前提である表現の自由や真実を守るため、力を合わせていこう」と国民に呼び掛けた。

 ラップラーはウェブサイト上で式典の模様を中継し、リアルタイムで世界中から多くの祝福のコメントが寄せられていた。その一方で同サイトでは、「嘘の女王」などと中傷し、意図して貶めようとするコメントも散見されたほか、それをたしなめるコメントをした個人には、執拗な個人攻撃を行う「トロール」も見られた。(岡田薫)

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