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6月27日のまにら新聞から

サンバレス海岸

[ 1152字|2004.6.27|社会 (society)|名所探訪 ]

未開発が恵んだ楽園

 サンバレス州の西海岸は「サンバレス・コーストライン」と通称される自然豊かな海だ。スービック湾に始まり北はパンガシナン州境のサンタクルス町まで自然海岸が波を受け止めている。特に南シナ海に面したサンアントニオ町からイバ町までは白砂海岸が日本の九十九里浜並みに五十キロ余りも続く。ピナトゥボ山の噴火直後は灰が厚く積もった。今は元の砂浜に戻ったが、きめの粗い砂に時折火山岩が混じっている。

 この海岸はサーフィンに格好の場所である。台風の通り過ぎた直後に大きなうねりが立つのが特徴だ。日本ではどこのサーフィンスポットも人だらけだ。   自然海岸が減った上にブームでサーファーが増えすぎた。対照的に、この長大な砂浜には週末ですら、一部のリゾートを除きほとんど人けがない。

 シーズン入りした六月初め、台風の合間に海岸を訪れた。ゆるやかに伸びた海岸線には低く雲がたれ込めていた。時折豪雨が叩きつける中、時折「ダブル」(身長の二倍)と呼ばれる大波が押し寄せる荒れ模様。波を探して歩いていると、波に乗っている人が一人だけいた。話しかけるとなんと日本人男性(28)で、スービック特別経済区の日系企業駐在員という。日本ではほかのサーファーと奪い合った波をここでは独り占め。形のいいうねりを選んで見事な滑りを何本もものにしていた。「車で三十│四十分で来れる。波質もいい。ただし情報不足が難点」と話してくれた

 サーファー以外にも、この海岸には十月末から二月にかけて海からやって来る訪問者がいる。産卵にやってくるウミガメだ。八割を占めるオリーブヒメウミガメ、緑がかったアオウミガメ、そしてべっ甲細工の原料として有名なタイマイもやって来る。卵をはらんだ母ガメは夜間に砂浜に穴を掘って産卵し、海に帰っていく。子ガメがかえるのは二カ月後だ。

 サンバレス海岸でウミガメ保護活動を進める市民団体「アジア環境保護財団」のプロジェクト担当、ガイ・インドラ・ヒルベロさん(46)によると、砂浜の南端に位置するサンアントニオ町だけで二〇〇二│〇三年のシーズンに約二千個の卵を採集。そのうちふ化場で千二百匹の子ガメをかえし、海に放った。海岸線全体ではどれくらいの母ガメが産卵しているか見当が付かないという。「地元民はこれまで卵を採って一個六ペソで市場で売っていた。今は沿岸の町も保護に協力し、すべての町でふ化場が設けられる予定です」とヒルベロさんは意気込んでいた。

 子ガメが親ガメになるまでの生存率は一パーセント。日本ではその過酷な生存競争に勝ち残ったカメすら、産卵に戻る砂浜がなくなっている。フィリピンの経済発展が遅れ、砂浜が残されたのはウミガメにとってラッキーだった。そしてこの海はサーファーにとっても「楽園」であり続けている。(岡本篤)

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