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2月24日のまにら新聞から

被災地復興(中)

[ 1290字|2014.2.24|気象 災害 (nature)|ビサヤ地方台風災害 ]

被災地では居住区移転が難航。政府が立ち上げた復興計画で自治体がしわ寄せ

被災3カ月が経っても台風の傷跡が残るカリコアン島のビーチ=6日午後4時ごろ、ビサヤ地方東サマール州ギワン町で写す

 ビサヤ地方東サマール州ギワン町の南にある面積30万平方メートルのカリコアン島。海岸線にはきれいな白砂が広がる。3〜5月のハイシーズンには世界各地から観光客が訪れ、サーフィンやダイビングを楽しむ。台風ヨランダ(30号)はこの風光明媚なビーチにも無残な爪痕を残していた。

 カリコアン島は2004年に開発が始まり、欧米だけでなく、日本や中国などアジアの観光産業からも投資が行われた。しかし、台風通過後は、海岸沿いにあったペンションなどの宿泊施設が倒壊、観光客の足はぱったり途絶えた。観光産業は町の貴重な収入源であり、ビーチの再建は大きな課題だ。

 ビーチにあるペンションの管理を任されていたビラ・ダグアニオさん(40)は被災後、ペンションのオーナーの英国人女性から「ペンションを建て直したい」と連絡を受けた。海外の出資者は、ビーチの再建に前向きな姿勢を示している。

 しかし、問題はアキノ大統領が掲げた「建築禁止区域」だ。大統領は直後に被災地を視察し、海岸から40メートル以内の区域での居住施設の建設を禁止するよう自治体に指示した。ビーチの宿泊施設は、この建築禁止区域にかかっている。はたして英国人のオーナーは、指示に従ってペンションを海岸から離れた場所に移動させる用意があるのだろうかと尋ねると、ダグアニオさんは困ったようにうつむいた。

 ヨランダはサマール島の南沿岸部を通過していった。被災地はどこも漁業で生活する住民が多く、居住区は建築禁止区域に当たっている。今、被災自治体の共通課題として、居住区の「移転問題」が浮上し始めている。

 ギワン町から直線距離で56キロ離れたサマール州マラブット町でも、同様の問題が発生している。同町のテレシタ・サブラオ社会福祉開発担当(56)は「建築禁止区域から移転が必要な住宅は1458軒。すべてを受け入れるには約29万平方メートル分の敷地が必要だ」と説明する。土地は見つかったが、地主との買い取り交渉が難航しているという。

 さらに「問題なのは予算が足りないということだ」とサブラオさんは付け加えた。同町は国家経済開発庁の統計調整委員会(NSCB)が設定した6段階の所得階層のうち、下から2番目に低い。自治体の予算は限られている。サブラオさんは「政府が設定した建築禁止区域だが、そのために発生する居住区移転にかかる費用に関しては、今のところ政府からの補助はない」と話す。同町は、被災1カ月後に復興計画を策定。特に生計手段の再建に力を入れて事業を進めているが、少ない自治体予算のため、思うように進まないという。

 政府は12月に復興・再建計画を立ち上げ、被災地の復興事業を進めていく方針を固めたが、具体的な動きは見えてこない。一方で、そのしわ寄せは実際に被災した地元自治体や現場で悪戦苦闘している人たちにきている。

 マラブット町に隣接するサマール州バセイ町町役場の若手職員は「政府の動きはあまりに遅すぎる。自分たちの町長も、復興は順調に進んでいると楽観的に言うが、現実が見えていない」と怒りを隠さなかった。(加藤昌平、続く)

気象 災害 (nature)