協力覚書を改訂へ 海保とPCG 巡視船追加供与も
PCG長官が16日に来日し、海保との覚書を改訂するとともに97メートル級巡視船の供与に関し日本と合意する見込み
首都圏マニラ市の比沿岸警備隊(PCG)本部で5日、日本メディア向けの特別会見が開かれた。PCGナンバー2のプンラザン作戦担当副長官、ナンバー3のデラベガ管理担当副長官と共に出席したガバン長官は、今月16日開催を予定する日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)友好協力記念首脳会議に合わせ訪日し、PCGと海上保安庁の協力覚書を改訂する方向で調整を行っていることを明らかにした。また、その際に比政府が計画する97メートル級大型巡視船5隻の日本からの調達についても合意する見込みだと述べた。
海保とPCGの間で長官級の協力覚書が取り交わされたのは2017年1月の故安倍晋三元首相の比訪問時。その際には定期会合の開催や人材育成協力、共同訓練の実施などで合意された。今度の改訂内容についてガバン長官は、「能力向上支援を含めた幅広いものとなる」とだけ説明。「自由で開かれたインド太平洋」に向け、米国などの同盟国・同志国との多国間連携の促進や、南シナ海における海保・PCGと海自・比海軍との間の「切れ目のない連携」など、南シナ海問題への日本の関与を強化する内容が盛り込まれるかがポイントとなりそうだ。
巡視船の引き渡し見込み次期について同長官は「最初の船は2027年に引き渡されることを希望している」と述べた。国家経済開発庁(NEDA)理事会は先月9日に日本から97メートル級巡視船を5隻追加調達する事業に293億ペソの予算を承認。比政府による日本側への正式な申し入れと両政府の合意を待つ段階となっていた。中国の南シナ海進出に対抗し、急ピッチで能力向上を進めるため、追加調達予定の97メートル級5隻は21年に供与された97メートル級2隻と同じモデルとなる見込みだ。
▽PCG基地建設は後か
その一方で、PCG最大の船舶拠点であるマニラ港には巡視船専用の岸壁がなく、民間船舶着岸の際にPCG船が立ち退かねばならない状況も生じている。そのため、日本は巡視船供与と同時に、スービックへのPCG拠点建設に向けた協力も進める。
巡視船係留施設開発についてガバン長官は「スービックのPCG船舶基地建設に向け取り組んでいるが、同時にマニラ湾内の場所も検討している」と説明。新たに供与される巡視船の停泊地については「PCGと同じ運輸省傘下の比港湾公社(PPA)管理の港湾を当座の母港とすることになるはずだ」と述べた。
先月10日を最後に実施されていない、南シナ海南沙諸島アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)を実効支配するために座礁させてある海軍艦への補給任務については「天候など様々な要素を考慮して実施する。今まさに議論しているところだ」とした。補給任務は約2~3週間に1度のペースで実施されてきたが、PCGバリロ報道官はまにら新聞に対し「少なくとも月1回は行う」と説明。週末までに実施される可能性が高いとみられる。
「補給任務にも日本に支援を求めるか」との質問に、ガバン長官は「日本から訓練を受けた職員が任務に当たっており、補給任務に投入している巡視船も日本製。比は既に支援を受けている」と回答した。
PCGは今年頭の時点で2万6000人の人員を2025年までに3万7000人に増員させる計画を進める。それについては「最終的には沿岸線1キロに対し3人、少なくとも10万5000人まで増やしたい」との計画を語った。
日本が政府開発援助(ODA)を通じた巡視船の供与を始めたのは、フィリピンが中国の海洋進出を仲裁裁判所に提訴してから約11カ月後の2013年12月。44メートル級10隻が2018年までに供与され、同船は現在アユギン礁への補給任務など「最前線」で活躍する。2016年10月にはPCG最大艦となる97メートル巡視船2隻の供与で合意。「尖閣領海警備専従体制」で活用される「くみがみ型巡視船」をモデルにした2隻が、ドゥテルテ前政権期の22年5~6月に就役している。(竹下友章)