「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
37度-25度
両替レート
1万円=P3,700
$100=P5685

9月28日のまにら新聞から

「分割統治戦術に警戒を」 中国「認知戦」に専門家ら

[ 1073字|2023.9.28|社会 (society) ]

南シナ海領有権で、複数の専門家が中国による比国内世論の分断や比越離間策を警告

 中国が南シナ海でフィリピンの管轄権が及ぶ海域(西フィリピン海)への実効支配強化を推し進める中、比国内世論に対し、中国が「認知戦」を展開していると複数の識者が指摘している。26日の英字紙インクワイアラーが報じた。

 国家安全保障会議のマラヤ事務局長補佐は先月、南シナ海南沙諸島のアユギン礁(英名セカンドトーマス礁)の実効支配のため意図的に座礁させてある比海軍艦について、中国側が「比政府は何度も撤去すると約束している」と主張し国内メディアもそれを大きく報じたことに対し、「中国の政治工作員が情報操作によって比国内世論に影響を与え、比の南シナ海における権益の主張をむしばもうとしている」と警告した。

 インクワイアラーの取材に対し、比シンクタンク国際開発安保協力(IDSC)代表のチェスター・カバルザ博士は、この発言に同調。「相手国民を分断することで、実際の戦争で荒廃させることなく征服・支配を容易にする、古代からある『分割統治』戦術を中国は取っている」と分析した。

 同紙の取材に対し、中国の南シナ海進出に厳しい立場を取るフィリピン大海洋法研究所所長のバトンバカル教授、カルピオ元最高裁判事、ラ・サール大のレナト・デカストロ教授は、それぞれ身元が確認できない人物から、ベトナムの南シナ海軍事化について批判的論評を書くよう求められ、報酬を提示されたことを明らかにした。

 3人は、中国または中国が後援する団体が比とベトナムの対立をたきつけようとしているのではと疑念を投げかける。

 先月マルコス大統領はホアン・チュン駐比ベトナム大使に「南シナ海に安定をもたらす材料となるような海洋合意」の早期締結に期待を表明した。「そんな合意は中国にとって悪夢だ」とデカストロ教授は指摘する。「南シナ海に権益を主張する東南アジア諸国が南シナ海管轄権問題を解決すれば、中国が孤立するからだ」という。

 またインクワイアラーは、同紙記者含む国内新聞記者3人に、国外在住者と称する謎の人物から、ベトナムの南沙諸島における人工島建設を止めたいとして、人工島開発計画に関する「極秘情報」の提供の申し入れがあったことを紹介。デカストロ氏は「比越海洋合意の内容を事前に入手した中国政府が妨害工作を企てている可能性はある」と指摘している。

 カルピオ氏は「南シナ海問題の当事国の中で、中国だけが2016年仲裁裁判所の判断を認めていない」と指摘。また「中国は、国内法で海上保安機関に海洋権益を保持するために武力の行使を認めている唯一の当事国だ」と警告した。(竹下友章)

社会 (society)