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「負の連鎖断ち切らなければ」 ミンダナオで児童教育支援

[ 2553字|2023.9.20|社会 (society) ]

学生と共にセブ・ミンダナオ島を訪れた島根県立大の藤岡篤司さんに聞いた

(上)オンラインインタビューに応じる島根県立大学の非常勤講師、藤岡篤司さん=6日。(下)子どもたちと交流する学生ら=セブ島(藤岡さん提供)

 島根県立大学の非常勤講師、藤岡篤司さんが学生4人と共に、ミンダナオ島などを訪れた。渡比は30回以上、国際社会開発学(教育・福祉)が専門の藤岡さん。日本人ビサヤ語話者では「きっとトップ30には入る」と豪語するほど、現地語が達者だ。そんなユニークな藤岡さんに比との出会いや関わりを聞いた。(聞き手は岡田薫)

 ▽比との出会いは

 大学時代は海外に興味が無かったが、社会福祉学部に在籍していて、「人のための仕事がしたい」とは思っていた。卒業して福祉施設で働いたが、ミーティングやデスク作業、パソコンと向き合うことが多く、「本当に人のためになる仕事って何だろう」と考え、社会人を2年半で辞めて海外各地を回った。「途上国」や「国際協力」といったキーワードに惹かれた。そして「ハウスオブジョイ」という元JICA(国際協力機構)協力隊の日本人が運営する東ダバオ州の児童養護施設を知り、「今日からボランティアで」と門を叩いた。

 ▽地域での教育支援状況は

 ボランティアの傍ら、公立小学校の一角に校舎を建てた。その一校舎だけ私立という感じ。障がいや家庭の理由などで登校できない子どもたちのための「学校」で、教育省からの認可はなく、学習要項もなかった。それで同校の先生たちと協力しあった。しかし、「建ててゴール」ではなく、そこから子どもたちの学習が始まる。

 当初はまず「やる気元気」で始めたが、知識が足りないと感じて日本で大学院に進学。実践は必要だが「子どもたちのためになっている」というエビデンスに根ざした教育の必要性を感じた。

 ▽児童全般の問題は

 同州では小学校にも通えない子が多い。私の学級は日本の「特別支援学級」に当たるが、学習困難者やイスラム教徒の子も多い。田舎はどこも似通っていて、街の中心に教会や市場、行政があり、一般的にムスリムは町外れに住んでいる。交通や学校へのアクセスが難しく、物理的に生活水準も低くなる。

 過去30年、紛争で通学も困難だった。親の世代が軒並み学校に通っておらず、文字が書けないので社会保障の申請もできない。

 地方ではこうした状況は現在も続き、出生証明書がない子どもたちもいる。「学校が絶対大事」とは思わないが、教育を受ける権利は誰にでもあるべき。負の連鎖を断ち切らなければ。

 ▽特別学級の状況は

 学習に遅れがある子どもは多く、テストに合格しなければ学年を上がれない。10歳で小学校入学といったケースも少数あり、国語の前に文字の勉強が必要な場合も。イスラム教徒や、それと発達障害、知的レベルが満たない子どももいる。しかし病院もない地域で診断書もない。本来であれば支援学級があるべきだが、障がい者の1人として生徒がカウントされていないのが現実だ。

 世界人口の約15%が何らかの形の障害を抱えているとされているが、比国勢調査(CPH、2010年)の結果によると、1・57%しか障害を抱えていないことになっている。しかし、認知されずに取り残されている子どもたちが多いと痛感している。

 障がいといっても、例として医学的なもので足にあるのか、スロープがない階段が「障害」となっているのか。そうした障がいはスロープをつけるなど改善が可能だ。日本でもよく言われる多様性が大切で、宗教も足かせの一つになっている面があるかと思う。

 ▽コロナ禍はどこに

 同州でコロナ禍に遭い、ロックダウンで半年以上出られなくなった。飛行機も「明日から飛びません」と。ビザも切れて不法滞在に。検問所を越えるためPCR検査の陰性証明書など複数書類が必要で、証明書を取りに出ようにも「ノー」と言われた。在ダバオ日本国総領事館が邦人向けの比空軍輸送機をチャーターした時も、空港まで辿り着けなかった。帰国まで半年以上かかった。

 ▽今回の訪比について

 島根県立大学地域政策学部での「ボランティア論」の授業の流れで、ハウスオブジョイとオンラインで結びながら授業をした。夏にまた行きたいと思っていたので、呼び掛けたところ、学生4人が手を挙げた。いずれも海外経験がほとんどない学生たちだった。

 8月23~30日まで。セブではスラムやゴミ山などを訪れ、国際協力NGOにもお世話になった。東ダバオ州ではバランガイ(最小行政区)で意見交換し、児童養護施設で子どもたちと寝泊まりした。学生にとっては全部が衝撃な体験だったと思う。まず日本人が珍しいので「地域からの視線をとても感じた」と話していた。「何かしなきゃと思った」とも。ただ、日本で着なくなった服や物を送った結果、現地の店が倒産する例も見た。熱い情熱は悪くはないが、現地目線で物事を見つめることが大事。現地語に英語で対応することからも食い違いは生じる。

 ▽特に印象的な点は

 東ダバオ州には3年ぶりに行って、街の発展を感じた。出稼ぎでお金を貯めた人々は、防疫下に地元で消費する以外なかった。今までは通り過ぎるだけの場所だったが、焼き鳥の屋台や店、バーなどが増え、えらく活気づいていた。街全体も観光客の呼び込みに力を入れていた。

 特にセブと比べ、大きな違いはゴミの質。互いに貧困ではあっても、モールが近距離にあるセブでは、工業的なゴミやプラスチックがすごく出る。それがゴミ山になっていて、街にもゴミが溢れている。衛生的にも悪い。

 一方でミンダナオの田舎にはモールなど一つもない。ファストフード店、コンビニもほとんどない中で、プラごみが少なく、ゴミの質が比較的クリーン。いずれも自然に帰るゴミなので街を見渡してもきれいだ。

 今後も持続可能な社会開発という視点を持って、比に関わり続けていきたいと思っている。

 ふじおか・あつし 島根県立大学地域政策学部で非常勤講師。元大阪人間科学大学心理学部兼任講師、元青年海外協力協会JOCA大阪。現在所属・施設に NPO法人「学習創造フォーラム FiLC」、一般社団法人 「豊かな暮らしラボラトリー」、益田市地域マネージャー(匹見町道川地区)、比NGO児童養護施設「ハウスオブジョイ」、ミンダナオ島サンロケ小学校特別支援学級「MIRAI」など

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