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ひと交差点

第5回 ・ オンライン英会話で日比つなぐ  レアジョブ社長の加藤智久さん

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「比人講師の才能を信じてあきらめなかった」と加藤社長

 インターネットの無料通信ソフトを通じてフィリピン人講師が教える「オンライン英会話」が日本で普及してきた。ITを利用して日比間をつなぐ新しいビジネスモデルで、現在100社近くがしのぎを削る。その中で、業界トップを走るのが講師3千人を抱え、1月に累計会員数が15万人を突破したレアジョブ社(本社・東京都渋谷区、支社・首都圏ケソン市)だ。

 「フィリピン人は単に英語ができるだけでなく、おしゃべり好きで、コミュニケーション能力が高い。国民性といわれるホスピタリティーも『英会話』を教えるうえで重要な要素。オンライン英会話講師としては世界最高の人材」。同社の加藤智久社長(33)=愛知県出身=は胸を張る。

 27歳の時に外資系コンサルタント企業を退職し、元エンジニアの同級生と「誰もが英会話を学べる環境」「日本人1千万人が英語を話せる社会」の創出を目指して、同社を立ち上げた。2007年10月の起業から6年目に入り、今年度の「ジャパン・ベンチャー・アワード」(主催・中小企業基盤整備機構)では、中小機構理事長賞を受賞した。 

 レアジョブ社のサービスは、月5980円の定額料金で、午前6時から深夜1時まで、好きな時に無料通信ソフト「Skype」を通じて、マンツーマンのレッスンが受けられる。音声通話が一般的だが、1回のレッスン料が2〜8千円の通学制英会話スクールと比べると、圧倒的に格安だ。

 業界最多を誇る講師約3千人の多くは、フィリピン大(UP)の学生や卒業生。加藤社長は「最初から講師の質がサービスの『肝』になる」と考え、起業と同時に初めてフィリピンを訪問した際にUPのキャンパスを訪れた。

 「校内の道路はボロボロで、学生たちの身なりも決して良いわけじゃない。でも、彼らの英語能力の高さを目の当たりにした時に、16世紀にポルトガル人がインドで安いこしょうを見つけて狂喜した感覚に近いような衝撃があった。彼らは宝のように輝いて見えた」と振り返る。

 UPには縁もツテもなかったが、校内の掲示板に求人の張り紙を出したところ「たまたま応募してくれた1人の女性の口コミで、一気に講師が集まった」。講師の年齢は10代後半から50代。女性が半数以上を占め、月3万ペソ近く稼ぐ人気講師もいる。現在では応募者が殺到し、講師の質を維持するために、採用率を応募者の10%程度に抑えているという。

 マカティ市に拠点を構える日系企業が多い中、レアジョブ社はマニラ支社をUPにほど近いケソン市のサウストライアングルに構え、日本人駐在員も置いていない。加藤社長ら経営陣は出張ベースで対応し、フィリピン人社員約80人を主体にした経営体制を敷く。

 「UP卒のような有能な人材を生かし、社員育成の意味でも、彼らの自主性に委ねてきた。課題や目標は分かるまで徹底的に話す。日本流でもフィリピン流でもなく、独自の経営手法。社員との関係を築く上ではビジネス街のマカティではなく、学生文化が強いケソンに支社を置いたことも大きい。最初は、人間不信になるくらい苦労もしたが、現在の体制には自信を持っている」と加藤社長。

 今では、日本への留学生の半数がレアジョブでの講師経験者といわれ、オンライン英会話は日比交流の新しいチャンネルにもなり始めている。

 「レアジョブを通じて、両国の人たちがお互いを知り合うきっかけになればなにより。今後も日比を繋ぐキーカンパニーでありたいと思うが、彼らの能力を日本だけで独占するのはもったいない。ゆくゆくは、他の非英語圏にもサービスを拡大していきたい。産業が少ないフィリピンの雇用創出にも貢献したい」と話す。まだまだ、守りに入る年齢ではない。フィリピンを拠点にする日本のベンチャー企業の代表として、若き経営者の本領発揮はこれからだ。(野口弘宜)

※レアジョブ公式サイト:www.rarejob.com

(2013.7.15)

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