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5月11日のまにら新聞から

「現代の英雄」の影 OFW死刑囚

[ 728字|2015.5.11|社会 (society)|新聞論調 ]

 世界各地から外貨送金を続けるフィリピン人海外就労者(OFW)が「現代の英雄」と呼ばれるようになって久しい。その弊害がクローズアップされるたびに、国内雇用創出策の強化を求める声が上がってきたが、インドネシアで死刑判決を言い渡され、執行当日に「待った」のかかったメリジェーン・ベラソ死刑囚の一件は、OFWのネガティブな側面をあらためて浮き彫りにした。

 OFWは比国内に残した家族の生活、子供たちの教育、自宅建設などのため海外へ出るわけだが、カトリック司教協議会(CBCP)のサントス司教はOFW送り出しの弊害を指摘する。その一つは、親と離れ離れになり、適切な養育を受けられない「OFW孤児」。両親の海外就労を機に家族崩壊に追い込まれたケースもある。

 就労先で犯罪に関与したり、事件に巻き込まれるOFWも少なくない。アンガラ上院議員によると、海外で死刑判決を受け、収監中のOFWは3月時点で88人。悪質な違法就労あっせん業者の暗躍も後を絶たず、人身売買の被害者は2013年だけで1135人に上った。労働雇用省海外就労者支援局(OWWA)の支援案件は09〜13年の4年間に5万件を超えたという。

 これらOFW送り出しの弊害を防止するため、同議員は「高賃金を得られる国内就労先を増やし、比国内にとどまれるような労働環境の整備が急務」と訴える。その実現には、労働雇用、貿易産業両省など関係省庁と地方自治体が一体となった取り組みが必要だ。また、農村部から都市部、都市部から海外という労働者の流れを変えるため、農業従事者の収入増、自立支援も欠かせない。海外就労は数ある選択肢の一つであるべきで、最後に残された唯一の手段であってはならない。(5日・ブレティン)

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