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10月31日のまにら新聞から

生活向上の代償は?

[ 678字|2005.10.31|社会 (society)|新聞論調 ]

海外出稼ぎの功罪

 海外出稼ぎは生活向上を約束するパスポートなのだろうか。就労あっせん業者前の長蛇の列を見る限り、「パスポートになる」と信じる国民が大部分を占めているようだ。

 事実、一九九七︱九八年の世帯年収を基にした世銀調査では、海外出稼ぎ者(OFW)のいる世帯の五一%は、比国内の高所得世帯上位二五%に属するとの結果が出た。また、「出稼ぎ世帯」の平均年収は構成員一人当たり七百七十八ドルで、「出稼ぎ者不在世帯」の四百五十六ドルを大きく上回った。

 皮肉なことに、調査は「ペソの対ドル相場が下落すればするほど、出稼ぎ世帯は潤う」とも指摘する。ペソの相対的価値が一〇%減少すれば、貧困世帯数も〇・六%減るという。

 調査結果が示す通り、海外出稼ぎが貧困軽減に貢献していることは認めざるを得ない。また、OFWの外貨送金がペソの値崩れを抑制し比経済を支えてきた側面も無視できない。

 しかし、比政府が「現代の英雄」と持ち上げる海外出稼ぎの内実は「失業者の海外輸出」にほかならない。出稼ぎにより崩壊した家族、両親不在のため非行に走った子供など、数字には決して現れない代償の存在を忘れてはならない。

 さらに深刻なのは、優秀な人材の海外流出だ。世銀調査によると、OFWの三〇%を大卒者が占めている。国民の十人に一人しか大学を卒業できない比の現状を考慮すると、「頭脳流出」は近い将来、国の発展を鈍化させるだけでなく、国を機能不全に陥らせる可能性さえはらんでいる。医師、看護師の海外流出による「医療危機」は、国の行く末に立ちはだかる厄災の前兆にすぎない。

(27日・インクワイアラー)

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