「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
36度-25度
両替レート
1万円=P3,670
$100=P5,750

1月30日のまにら新聞から

イリガンのティナゴ滝

[ 1249字|2005.1.30|社会 (society)|名所探訪 ]

自然の神秘に息のむ

 ミンダナオ島北部の拠点都市、カガヤンデオロ市から高速バスで約一時間半ほど海岸沿いに西に向かうと北ラナオ州最大の町、イリガン市に到着する。同市はミンダナオ島を代表する工業都市で、イリガン湾に面する沿岸地域にはインドの大手製鉄企業に買収された旧鉄鋼公社のプラントをはじめ、石油化学、セメント、食品加工などの工場群が立ち並ぶ。

 このように工業地帯を形成し、イスラム世界との境界域に位置するイリガン市だが、「水の都」を自称している。観光資源が、滝、泉、鍾乳洞など水に関係しているためだ。特に市内とその周辺の二十三を数える大小の滝が最大の見所となっている。

 市街を見下ろす丘陵地にはミンダナオ島の電力供給を担う国家電力公社所有の水力発電所が稼働している。発電所の中にあるマリア・クリスチーナ・フォールは水量が豊富なことで有名。毎週土・日曜日に一般公開し、多くの観光客を集めている。

 自然の神秘を強く感じさせるのは市中心部から八キロ離れたブロオン・バランガイ(行政最小単位)のティモガ地区にある「ティナゴ・フォール」。訪問するには市観光課職員の同伴が義務づけられている。

 「隠れた滝」と命名された通り、この滝は国道から脇道にそれて山道を車でたどること約三十分。リゾート跡で降車、徒歩で垂直と思われるほどに急な坂道を所々崩れたコンクリートステップを踏みしめて三十分ほど下るとジャングルに囲まれた寂れた山懐にその雄大な姿を現した。

 周囲一帯に叩き付ける激しい水音に息をのんだ。目を上げると緑深い山腹からいきなり巨大な弓状の水のカーテンが眼前に出現した。百八十度のパノラマが広がり、あちらこちらから水が勢いよく滝つぼに落ち込んでいた。案内してくれたタクシー運転手の男性も初めて目にしたためか、大きな口をあんぐりと開けしばらく見とれていた。

 イリガン市観光課ではこのティナゴフォールのあるブロオンとマリア・クリスティーナ、さらにプールで泳ぎながら滝を眺望できるビトカランの三地区を観光トライアングル地域として今後開発する予定だ。

 しかし、観光振興を阻むのがイスラム教徒反政府勢力と国軍との繰り返される軍事衝突と無差別爆弾テロに象徴される治安問題。イリガン市を含む北ラナオ州はイスラム教徒が多数派を占めるイスラム教徒自治区(ARMM)を構成する南ラナオ州と接しており、イスラム世界への玄関口でもある。同市人口二十二万人のうちイスラム教徒の占める割合は六%余りだが、目抜き通りには、色とりどりのスカーフで頭を覆うイスラム女性の姿が目立つなどイスラム色が強い。

 市観光課長のアグネス・クレリゴさん(38)は、「ミンダナオ島でテロ事件などが起きるとイリガンへの観光客が減るのが残念」とこぼす。「市の犯罪発生率はマニラ首都圏よりも低い」と主張するクレリゴさんは外国政府の渡航注意勧告の影響を懸念する。

 「水の都」の観光化が遅れるほど、隠された神秘の滝ははますます人目から遠ざけられてしまうだろう。(澤田公伸)

社会 (society)