15日に邦人2人の射殺事件が発生した首都圏マニラ市マラテ地区を管轄する首都圏警察マニラ市本部エルミタ署のサリグンバ署長(警視補)は28日、同事件に関与した容疑者は逮捕された実行犯2人を含め「8人から12人いる」と明らかにした。中には今回の殺人を引き受けた「コントラクター(受注人)」、殺害・逃走計画を立てた「プランナー(計画者)」もいるとした。また、着手金としては100万ペソ(約260万円)が支払われており、そのうち1万ペソのみ逮捕されたアベル・マナバト容疑者(62)=ガイドとして被害者に同行=に支払われたとした。
▽犯行直後にビール
同署長は捜査によって明らかとなった当日の一連の流れを説明。午後7時ごろから、殺害の実行犯アルバート・マナバト容疑者(50)=アベル容疑者の弟=は、現場の下見、逃走経路の確認を行っていた。タフト通り付近の監視カメラには、同容疑者が露天でたばこを購入している姿が監視カメラに収められていた。
事件は同日午後10時40分ごろ発生。被害者2人とアベル容疑者が乗ったタクシーがマラテ地区マルバール通りのホテルの前に停車し、被害者が降りたときに待ち構えていたアルバート容疑者が2人の頭を撃ち抜いた。その時3人を乗せていたタクシー運転手は、殺害前にアベル容疑者が車中から電話で「バッグも取れ、金でいっぱいだ」と指示を出しているのを聞いたと証言した。
犯行後、アベル容疑者は現場前のホテルのすぐ向かい側のコンビニエンスストアに立ち寄り、ビールを購入。携帯電話で何者かと通話した。サリグンバ署長は「気を落ち着かせるためにビールを飲み、共犯者に報告したのだろう」と説明。その後アベル容疑者は、被害者と共に宿泊していた首都圏パサイ市のカジノホテルに行きチェックアウト。そのときに受付に被害者については何も伝えなかった。
▽服を変え、共犯の手引きで
一方、射殺の実行犯はオートバイに乗って逃走する。この事件は犯人を現場で逮捕できなかったことから、警察が6月から実施する「5分内対応」に失敗したとの説も流れていたが、サリグンバ署長はこれを否定。犯人のオートバイの十数秒後に複数の警察の白バイが後を追いかける監視カメラ映像を公開した。
「そこまで追跡できていながら、その日はなぜ逃げられたのか」。この質問に同署長は「その後の捜査で、犯人はオートバイを乗り捨てた後、服を着替え、乗り物を乗り換え、ジプニー(乗合バス)を含む複数の公共交通機関を利用して姿をくらましたことが分かった」と説明。「逃走用オートバイを準備した人物、着替えの場所を確保した人物、乗り換える乗り物を準備した人物など複数の協力者が存在した」とし、殺害から逃走まで複数人で用意周到に計画されていたとの見方を示した。
さらに、「犯行現場は繁華街で人も自動車も多く、警察は犯人に向かって撃つことも不可能だった」とした。
▽動機は「ビジネス上の内輪もめ」
犯行の動機について、同署長は「被害者らは違法ビジネスを行っており、ビジネス上の仲間割れだとみている」と説明。被害者2人のうち1人の背中全体に入れ墨があることを確認した上で、「日本国内で違法ギャンブルに関連した記録を持っていたとの情報をつかんでいる」とした。また、被害者の所有物から日本に約4000万円の残高のある口座が見つかったとした。
フィリピンを拠点とする日本人反社会グループ「JPドラゴン」と関係していたとの情報については「うわさとしては知っているが、まだ確認中だ」と明言を避けた。
19日のマニラ市長の会見では、「日本にいる首謀者が殺害を依頼した」と説明されていたが、首謀者については「どの国にいる何人かもまだ確認中の段階だ」と述べた。
マニラ市警察本部のイネス報道官はまにら新聞の問い合わせに対し、容疑者が供述した首謀者の情報は日本当局に伝達したが、その人物の名前は「通称」であることを明らかにした。(竹下友章)