マニラ日本人会と在フィリピン日本国大使館は14日、昨年10月からマカティ市を中心とする首都圏で強盗事件が頻発している状況をふまえ、「安全対策に関する緊急説明会」を開催した。昨年12月に引き続き2回目の開催となった。
会場はマカティ市の日本人会会議室で、午後2時から1時間開かれ、マニラ日本人会の岡本和典会長、二村邦彦事務局長と、在比大使館の花田貴裕公使兼総領事、西村玄警備班長、穂積正幸領事が話し手として参加。日本人会会員を中心に、前回より約90人多い約375人(現地15人、オンライン約360人)が説明会に訪れ、在比邦人の安全に対する関心の高まりが表れていた。
集会冒頭、岡本会長は、「安心安全が邦人にとって一番大事なこと。捜査中の情報など公開できない情報もあるが、在留邦人の安全対策のために情報を共有したい」と挨拶した。花田総領事は、「万が一邦人の皆様が被害にあっても身体は無事であるようにと思い、説明会を開催した」と述べるとともに、領事メールやたびレジなど、大使館からの危険情報を即時に受け取れるサービスの活用を促した。
また、説明会に参加していない人にも今回の内容を共有し、強盗被害を防ぐための注意事項を守るよう呼び掛けた。
説明会は、昨年10月以降に邦人が被害を受けた強盗事例、比全体の犯罪発生状況、在留邦人の注意点の3項目を中心に進められ、最後に質疑応答が行われた。日本人会会員には事前資料が配布され、現地ではスライドを活用した。
▽邦人の強盗被害事例
西村班長によると、昨年10月以降17件の強盗事件が大使館に報告され、そのうち13件がマカティ市内で発生している。
直近では被害者が殺害された事例はないものの、発砲で負傷したとされる事例が2件報告されており、予断を許さない状況が続いている。
犯行パターンは、バイクに二人乗りした男が街中を徘徊しながら被害者に接近し、拳銃のような物をみせて所持品を奪うという共通点がある。
犯行現場は薄暗い場所や繁華街の路上のほか、BGCなど人通りの多い場所や飲食店内に押し入った事例もあり、一定していない。時間帯は夜が多いが、白昼にも発生している。
また、強盗発生時は晴れていることが多く、雨天時の事件は少ない傾向にある。
一方、セブとダバオの日本領事館には同時期の邦人の強盗被害報告は入っていない。しかし、4月20日にアンヘレスで韓国人が殺害された事例があり、首都圏以外の滞在者もする必要があると呼びかけた。
強盗被害を受けた邦人はほとんどが男性で、単独で歩いている邦人女性の被害事例は報告されていないという。被害者の年齢は20代から60代と幅広く、服装もカジュアルな普段着やスーツなどさまざま。短期滞在者だけでなく、長期滞在者も強盗への警戒が必要だと指摘。出国日があらかじめ確定しているため、強盗被害に遭っても被害届を出す可能性の低い短期滞在者を狙っている可能性もあるという。
▽比国内の犯罪状況
比国内全体の犯罪状況については、国家警察(PNP)の統計を引用。2024年の比国内の犯罪認知件数は約20万件で、2016年の約33万7000件から大きく減少している。
しかし、花田総領事によると、統計には軽犯罪が含まれており、拳銃強盗など程度の重い犯罪が実際に減少しているかは不明。
首都圏警察南部本部の統計によると、日本人以外では2024年1月から11月20日にかけて、中国人が9件、韓国人が3件、ベトナム人が2件、カナダ人が1件の強盗被害を受け、死亡事例もある。欧米人の強盗被害事例もあるという。
▽被害を防ぐために
西村班長は、強盗被害に遭った際は身の安全を最優先に考え、絶対に抵抗せず落ち着いて行動するよう、強く呼び掛けた。そのほか①夜間の徒歩移動は控え、近距離でも車両で移動②徒歩移動の際は車と向かい合う方向で歩き、車道から離れる③バック等は車道と反対側か、身体の正面に携行④接近してくるバイクや不自然に停車しているバイクに警戒⑤多額の現金、旅券など貴重品は携行を控える(旅券は複写を活用)⑥やむを得ず貴重品を携行する場合には分散させ、特に財布と携帯電話は分ける⑦ATM等で現金を引き出す際は、ショッピングモール内や警備員のいる場所を利用⑧レストランやショッピングに行く際にも可能な限り警備員のいる場所に行く――などの注意事項を挙げた。もし強盗被害にあった場合、すぐに大使館の24時間対応の邦人援護ホットラインと、国家警察へ通報するよう呼び掛けた。
大使館は比政府に対し、様々なレベルで邦人の強盗被害を減らすための対策を要請しているという。比政府も邦人の強盗被害の増加を憂慮し、パトロール頻度を上げるなど努力をしているが、すぐに状況が改善するとは考えにくい。花田総領事は、「治安の改善は一朝一夕では難しいが、今後も対策強化などを呼びかけ続ける」としている。
説明終了後、参加者は積極的に質問し、大使館職員らが丁寧に答えていた。他国の大使館の強盗対策については、韓国大使館によるトラベルアドバイザー派出を紹介。韓国大使館も日本大使館と同様、強盗発生確率の高い環境の徒歩移動を控えるよう呼び掛けている。
被害にあった際、PNPへの個人情報提供の安全性を問う質問では、最終的には個人に任せるとしたうえで、大使館と警察への通報後に捜査が始まる基本的な流れを説明した。一方、日本より滞りやすく、費用がかかる傾向にある比の裁判制度の課題についても共有があった。
花田総領事は、「これをやっておけば安心という対策はない。命より大事なものはないので、強盗に遭遇した場合は犯人を刺激せず、無理に抵抗して命を落とすことの内容注意してほしい」と、繰り返し身の安全を最優先にした対策を呼び掛けた。(宇井日菜、田中希乃花、松鶴れいら)