首都圏マカティ市サンロレンソ地区アルナイス通りで4日、日本食店に拳銃を持った2人組の強盗が押し入り、邦人男性(62)が所有していたものを含む8個の携帯電話などを奪った。犯人はいったん逃走したが直後に店に引き返し、携帯電話全部を被害者に返却した。一方で、犯人のうちの1人は邦人客から約2万5000ペソが入った財布を奪い去った。首都圏警察南部本部は声明で、「今回の事件は典型的な強盗とは異なる特徴を有しており、動機の解明が急務」と発表。「被害者には速やかに被害届を出すよう要請している」とした。
首都圏警察マカティ署などによると、同日午後6時すぎ、店内に黒のヘルメット・黒のジャケット姿の男と、白のヘルメットとバイクタクシー「ジョイライド」の制服を着た男が入店し、右手に持った拳銃のようなものを見せ、客に対し貴重品などを出すよう要求。2人は邦人客を含む複数人のウェストポーチなどを調べ携帯などを奪った。しかし、再入店して店員に携帯を全部返却。この間、店員は犯人に「これは許されない行為だ」と伝え、それに対し犯人は「盗んだものは全部返す」と丁寧に応じたという。その一方で、犯人の1人は、もう1人が見ていないところで、邦人の財布を取っていった。また、入店時に犯人は「(標的は)中国人だけだ。フィリピン人じゃない」と叫んだという目撃証言があることから、警察はヘイトクライム(憎悪犯罪)の可能性も含め捜査を進める。
マカティ署によると、携帯の返却により、被害者は邦人1人だけとなった。被害に遭った邦人は事件当日午後11時ごろマカティ署に出向いたが、帰国のため翌5日午前7時の航空機に搭乗するとの理由で、事件に遭ったことを証明する警察の報告書だけ求め、逮捕状の請求などに必要な被害届は提出しないとの意思表明を行った。
警察は外部の監視カメラの映像から既に容疑者の乗っていたオートバイの持ち主を特定。持ち主への事情聴取を含め、捜査を進めるとしている。ただし、マカティ署の広報担当は被害届なしで捜査を進める難しさを指摘。「既に現行犯逮捕する時間は過ぎてしまい、被害届なしでは容疑者を特定しても逮捕状の請求できない。しかし、目撃者の証言などを集めて、検察に書類の送致を試みるつもりだ」と語った。その上で、「何回も(まにら新聞に)伝えているように、比では強盗や窃盗は親告罪であり、日本人が被害者となるケースでは、被害者が捜査に協力してくれないことが大きな壁になっている。現在大使館と相談し、被害者の委任状のもと、大使館の弁護士を通じて被害届を出してもうことができないか引き続き調整している」とした。
また、今回も犯人がバイクタクシーの運転手と乗客を装って犯行を試みたことに関し、「バイクタクシー会社と協力して情報を提供してもらうことはできているのか」との質問には、「われわれは要請できるが、強制できない」と説明。「民間企業は自社の規定にしたがって情報提供を行うため、協力を拒否する権利も持つ。バイクタクシーの運転手についても、運輸省陸運局(LTO)への登録制度ができることをわれわれとしては希望している」と説明した。
今回の事件は監視カメラの映像が拡散し、犯人が一度奪った携帯を返却したことから現地メディアも注目。事件翌日昼過ぎには首都圏警察マカティ署のデラトレ署長も現場に訪れ、午後4時には現地メディアへの会見を開いた。
昨年10月19日から首都圏で続発する邦人に対する拳銃強盗の報告は今回で16件目。うち12件はマカティ市で報告されている。ただ、その中で、被害者が被害届を出したケースは一部のみ。中には「被害者」による報告はあるものの、実際に犯行が行われたなら出るはずの客観的な証拠が出てこないケースも含まれている。(竹下友章)