比米首脳会談前の会見でトランプ大統領は22日(米時間)、スービック湾の旧米軍基地跡地に米国が比米共同の弾薬製造備蓄施設の建設を計画していることについて、「とても重要だ。われわれは弾薬が必要だ。それがなければ数カ月で終わってしまう」とし、「われわれはいかなる国がこれまでに保有したより多くの弾薬を保有し、高速ミサイル、精密ミサイルを含め複数種類のミサイルをどの国より多く持つ」と宣言した。マルコス大統領は「弾薬施設に関しては、米国はわれわれの自衛力強化プログラムを支援している。米国やその他の国と協働しなくてはいけないのは、必要だからだ」と述べた。
米下院から「米軍はインド太平洋地域に前線弾薬製造施設がない」として持ち上がったスービックへの弾薬施設建設計画を巡っては、ロムアルデス駐米大使が21日(比時間)に「まだ公式な交渉はないが、国内にも雇用を生む」として前向きな見解を示していたが、今回の会談で比米大統領が必要性を明言したことで、一気に既定路線となりそうだ。
▽中国との距離感
会見ではまた、米軍が巡航ミサイルや弾道弾迎撃ミサイルを発射できる「タイフォンミサイルランチャー」や無人地対艦ミサイル搭載車両「NMESIS」を持ち込み、タイフォンについては比陸軍が調達を計画していることを念頭に、「こうしたミサイルの導入は中国との緊張を激化させないか」との質問が飛んだ。マルコス大統領は、「国軍近代化の全ては南シナ海、ひいてはインド太平洋を取り巻く(安全保障)環境への対応に必要だからだ」と回答した。
また「米中とのバランスをどう取るか」との質問には、「米中のバランスを取る必要はない。独立外交を採用しているからだ」と回答。「われわれの関心は主権と主権的権利に関すること。単独だろうが、パートナーとであろうが同じ。最も強いパートナーは米国だ」と強調し、「われわれは価値を同じくし、国連海洋法条約をはじめとする国際法を順守する同志国と連合体、多国間関係を形成しようとしている。一方的に国際秩序を変更する意図を持った国への立場は明確だ」と述べた。
▽残るドゥテルテ氏への嫌悪
トランプ氏は比中関係について、ドゥテルテ前大統領を念頭に、比人記者に対し、「あなたは別の大統領で問題を抱えていただろう。その時代、国は中国に傾いていた」とし、「だがわれわれがその傾きを素早く直した。中国とは交渉すべきだが、私が当選してからは全てが正しい道へ戻った」と発言した。一方で、「かれ(マルコス氏)が中国といい関係になることは気にしない。比も国を偉大にする必要がある。米国もそうだ」とし、双方が対中関係の改善に積極的な姿勢を示した。
また冒頭では、「(フィリピン)は軍事的にとても重要な国であり、最近も大きな軍事演習を行った。『前政権』とはあまりうまくいかなかった。どの国ともうまくいっていなかった。しかし、われわれは(現在)素晴らしい軍事的な関係をフィリピンと持っており、それは再制度化された」と述べた。
トランプ氏はさらに、2017年のマラウィ市包囲戦における米国の協力を念頭に、「フィリピンはISISや他のテロリストで溢れていた。私の政権でかれらを一掃した。それでフィリピンは頑健な国になった」と発言した。
前大統領への批判をする一方でトランプ氏は、マルコス氏に対しては、「偉大な家族のレガシーがある。私にはフィリピンの友人がおり、彼(マルコス氏)がとても尊敬されていることを知っている」「私は彼(マルコス氏)も彼の家族も知っている。フィリピンは素晴らしい国だ」と述べるなど、マルコス大統領やマルコス家に対する好印象を繰り返し口にした。
第1次トランプ政権(2017年1月~21年1月)期のフィリピン大統領はドゥテルテ氏。その時代、比政府は訪問軍地位協定(VFA)の破棄を米国に突きつけたのに対し、トランプ氏は「別に構わない」と無関心の姿勢を示し、長年続いてきた比米合同軍事演習バリカタンが休止されるなど関係は冷え込んでいた。(竹下友章)