先月首都圏警察マカティ署長(代行)に就任したガルドゥケ警視は9日、日本人飲食店オーナーらが4月に設立した「メトロマニラ飲食店協会」(嶋川修三会長)の会合に初めて出席し、邦人コミュニティー保護への警察の取り組みを共有した。同署長は、リトル東京エリアをはじめ、重要地点に24時間体制で警察官を配置しているほか、私服警官も防犯のための監視・警戒に当たっていると説明。「マカティ警察はありとあらゆる手段を講じて日本人を含めた外国人や観光客の安全を守る」と強調した。また、先月26日にアルナイス通り沿いのモール駐車場で発生した中国人容疑者による銃撃事件についても「通報から5分以内に警察官が現場に到着し、犯人を逮捕することができている」と述べ、先月就任した国家警察のトーレ新長官による「通報5分以内対応」の命令を実行するなかで、対応能力が一層強化されたことを説明した。
会合で嶋川会長(レストラン「うな吉」オーナー)は、先月デラトレ前署長と議論をしていた、銀行に類似したボタン通報システムを協会加盟店とマカティ署の間に構築する構想について質問。新署長は「そのようなシステムを構築することは可能だ」との見解を示した上で、「現在、警察は新長官の指示のもと、緊急電話911番からの通報への即応に力を入れており、当面はこちらで対応したい」と説明した。
昨年10月からマカティ市を中心に続発する拳銃強盗事件を巡っては、邦人被害者が様々な理由で被害届(刑事告訴状)の提出を見合わせるため、強盗が親告罪であるフィリピンで捜査や刑事訴追が進まないという問題がある。嶋川会長はこの問題に対応するため、「協会にジャパンデスクを設置し、委任状を預かって被害届を代理提出する体制を作れないか検討している」と報告した。
この問題についてガルドゥケ署長はまにら新聞に対し、「犯人逮捕や犯人に法の裁きを与えるために、最も重要なのは被害届の提出。われわれは日本人被害者に継続して協力を要請してきた」と強調。「だがもし本人が提出を望まないのであれば、代理提出が可能だ」として協会の動きを歓迎した。また、「犯人を現行犯逮捕し、奪われたものを取り戻して後に、被害者が被害届を出さないと意思表示したことで、犯人の訴追や収監ができなくなることもある」とし、現行犯逮捕しても被害者の協力を得られず立件を断念するケースがあることを説明した。
▽過剰にあおられる恐怖
また会合で、嶋川会長は、「昔と比べ治安自体は改善したとしても、現在はSNSや報道などで事件の情報が拡散されることで、過剰に恐怖があおられ、それが飲食店の営業に悪影響している」と問題意識を提示。
十分な裏付けに基づかず、過剰に恐怖心があおられた事例としては、4月30日にマカティ市サンイシドロで報告された「発砲を伴う邦人男性への強盗事件」がある。在比日本国大使館は5月2日に領事メールで「犯人が背後から発砲した」と報告。それを受け、複数の日本のキー局がそれを事実として全国ニュースで報じた。しかしその後の警察の捜査では、犯行現場から薬きょう、弾痕、銃声、また監視カメラ映像などの証拠が出てこず、撃たれた際に負ったと邦人男性が主張する擦過傷も、銃弾がかすった痕(あと)としては到底認められないことから(男性は医師の診察を拒否)、捜査を担当した第3分署は「発砲事件は発生していない」と本署に報告している。
この事案についてガルドゥケ署長は、まにら新聞に対し、「その後われわれは当該日本人が保険金を請求したという情報を確認している」と明らかにし、その上で「保険金を得るために事件をねつ造した可能性をわれわれは軽くみていない。警備員を含む周辺への聞き込み捜査では、事件発生時刻に銃声や異状がなかったことを確認している。周辺の監視カメラを含め、発砲事件が発生したことを裏付けたり、補強したりするものは一切出てこなかった」と述べ、「われわれは真相の究明のために引き続き捜査を続けている」とした。
5月に発足した外国人犯罪被害者支援に特化して警察などが外国人コミュニティーと協力する枠組み「コミュニティー支援安全協力ネットワーク」(CASSN)について、「マカティ市でどのように具体化していくか」との質問には、「この会合に参加したのもその一環。日本人含む外国人コミュニティーとの定期的なコミュニケーションを取るべく、具体的な取り組みを考えている」と回答。その上で、日本人コミュニティーに期待する警察への協力としては「言語障壁への対応が課題だ」とし、「随時対応してくれる通訳ボランティアの提供や、警察官向けの日本語講習があれば、さらに日本人へのサービスを向上させることができる」と語った。(竹下友章)