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「無理せず、やれる範囲広げる」 NPO「アクション」創立30周年 日本大使公邸で記念レセプション

[ 2333字|2024.2.6|社会 (society) ]

日本国大使公邸で比を拠点に、日系NPO法人「アクション」の創立30周年記念レセプションが催された

創立30周年を迎えた日系NPO法人「アクション」の活動を説明する横田宗代表(中央)=1月31日夜、首都圏マカティ市の日本国大使公邸で岡田薫撮影

 首都圏マカティ市の日本国大使公邸で1月31日夜、フィリピンを拠点に、子どもたちが自分の力で夢に向かってチャレンジできる社会を目指す日系NPO法人「アクション」の創立30周年記念レセプションが催された。同レセプションは国際協力機構(JICA)フィリピン事務所が日本大使館の協力のもと主催した。日系企業や比政府関係者ら約50人が参加した。

 公邸をレセプション会場に提供した越川和彦大使は、アクションの使命やビジョンに基づく活動が、幅広いコミュニティーからの理解・支援を得て大きく広がり、30年の節目を迎えたことを祝福。JICA支援でアクションが取り組む「マニラ首都圏を含む11地域の児童福祉施設および自治体における子ども達の支援体制強化プロジェクト」にも触れ、多岐にわたるアクションの活動の「功績がいかに大きいかは、フィリピン政府からの数々の賞や認定から明らか」と述べた。

 また越川大使は「『日本の国際協力は顔が見えない』と言われた時代もあったが、アクションのような草の根活動を長年継続する日本のNGOの働きで、ここフィリピンでは日本の顔がしっかり見えている」。また、企業関係者に向けては「立派な活動をしているNGOを支援してもらえたら」とも呼びかけた。

 ▽福祉専門家のNGO

 日本の団体として初めて比政府から寄付金控除の認定を受けるなど、数々の実績を積み上げてきたアクションは、代表を務める横田宗(はじめ)さんが17歳で設立した団体。横田さんはアクション、そして自身の生い立ちを振り返り、推進予定のプロジェクトを説明。食料品や自動車産業に関連したプロジェクトでもあることから、同産業方面の企業が多く集まり、個人的に親交がある在比ニュージーランド大使夫妻の姿もあった。

 横田さんによると、サンバレス州オロンガポ市のメイン事務所は約100坪。「子ども達が来て盛り上がる場所がいい」との思いから、入り口はスターバックスを模すなど工夫を凝らす。首都圏マラボン市の事務所は約60坪で、似たレイアウトではあるが、ここは「ファンドレイジングや日本からの訪問者への応対に重点を置く」という。スタッフは社会福祉士の免許を持つ福祉専門家で構成され、「フィリピンのNGOで最も社会福祉士が多いのでは」と強調した。

 アクションの活動は多岐にわたる。横田さん師範の空手教室にはじまり、ダンスクラス、美容師やマッサージ、セラピストの育成、性教育の普及や人身売買防止プロジェクトの実施、給食の支給など、いわば複数のNGOの集合体ともいえる。社会福祉開発省と連携した青少年更生施設でのプログラム、制度設計にも携わる。そうした活動が認められ、昨年12月には同省新設の「優れた社会福祉開発団体賞」を受賞。同賞を受賞した唯一の日系団体となった。

 アクションは「自分たちの力だけでなく、企業や公的機関など様々なところとパートナーを組み、経験知見、アイデアをお借りする」との考えの下、「無理せずに、どんどんやれる範囲を広げていきたい」と横田さん。たとえば、自身が日々自動車やオートバイを運転する中で気が付いた、車による「ありがとうハザード」の点灯を通した「譲り合い精神の普及」や、交通安全のティックトックでの呼び掛けなど、数々のアイデアを持ち合わせる。許可を得た上での募金箱の設置にも力を入れる。

 ▽草の根技術協力で

 JICAフィリピン事務所の坂本威午所長によると、JICAは地下鉄事業をはじめとする国家間協力に加え、市民参加協力の代表スキームの一つ「草の根技術協力」を通じて、NGO・地方自治体への支援を継続してきた。「児童養護施設の子ども達の健全な成長・発達支援、更生施設の青少年やストリートチルドレンの社会への適合に向け、アクションとはタッグを組んで取り組んでいる」と乾杯の音頭で説明した。

 また、横田代表の人生を俯瞰し、「まるで映画みたい。こんな人がいるのか」と驚きを隠さない。その上でアクション関係者の「企画力、行動力にはお世辞ではなく、深い敬意を表す」。さらに坂本所長は、交通安全や廃棄食品の削減といったアクションによる「今後の社会貢献も何らかの形で支えていけたら」との思いも口にした。

 ▽企業自身が変化

 会場では、アクションと共同プロジェクトを進めてきた支援企業2社による「サポーターあいさつ」も行われた。江崎グリコの比現地法人「グリコ・フィリピン」のカントリー・ヘッドである三木孝司さんは、新型コロナ禍の防疫措置の影響で、賞味期限切れを迎える直前の食品を、アクションを通じ寄贈する活動を振り返った。三木さん自身が現場にも足を運び、「もっと事業を通した比での社会貢献ができるのでは」との思いを強くしたという。

 職場でもアクションへの寄付を募る募金ボックスの設置や、笑顔の子ども達の写真を壁に張るなど、従業員向けの意識向上の取り組み、三越BGC内に古本の回収ボックスを置き、地方の施設まで届けるといった独自の活動も伝えた。

 フィリピン経済区庁(PEZA)の製造企業向け計測器輸入販売を行う「日本電計フィリピン支社」の佐藤一元社長は、約15年前のベトナム勤務時代に出会った友人からアクション・横田代表について聞いていた。

 後に比に赴任し、横田代表と「ただ単に会うのは失礼」との気持ちで、会社を説得し、支援を準備した上で連絡を取った。その結果、収益の一部を比の貧困層に還元する「パワー・オブ・デザイン」が始動し、昨年からアクションと少年院入所者や子どもたちへの教育プログラム(ウェブデザイン)が実施に至っているという。(岡田薫)

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