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映画通じ両国の比日ハーフ出会う 「世界は僕らに気づかない」上映会

[ 2653字|2024.2.5|社会 (society) ]

日本に住む在日フィリピン人2世の苦悩を描いた「世界は僕らに気づかない」の飯塚監督と主演の堀家さんが当事者らと意見交換

(上)発言するDAWNのヌキ代表=3日、マンダルーヨン市で竹下友章撮影。(下)トークセッションに登壇した堀家一希さん(左)と飯塚花笑監督(中央)=3日、マンダルーヨン市で竹下友章撮影

 「フィリピンパブ嬢」の子どもとして日本に生まれた2世の苦しみを、丹念な取材で描き出した映画「世界は僕らに気づかない(英題:Angry Son)」が3日、国際交流基金マニラ文化センター(JFM)主催「日本映画祭」の目玉作品の一つとして、首都圏マンダルーヨン市のシャングリラプラザ・レッドカーペットシネマで上映が始まった。上映会には特別に監督・脚本を務めた飯塚花笑さん、主役を務めた堀家一希さんが招かれ、トークセッションが開かれた。また、劇場にはフィリピンで育った比日ミックス(ハーフ)の人々、そしてその支援団体であるNGO「DAWN」(1996年設立)のカルメリータ・ヌキ代表も国際交流基金マニラ文化センター鈴木勉所長の招待で参席した。

 今作の主人公・純悟は、飯塚監督みずから多数の在日比人2世にインタビュー取材し、その語りの中から、「母親の作ったフィリピン料理の弁当がクラスメートに気持ち悪がられた」「母親が『女』としての顔を家の中に持ち込むのが耐えられなかった」など共通の経験を抜き出すという手法を通じ、徹底的に事実に立脚したかたちで造形された。また劇中に登場するフィリピンパブも本物で、比人ホステスも実際そこで働いている人に出演してもらうなど、リアリティーの追及に徹した。

 DAWNのメンバーとして招かれた比日ミックスの今井強志さん(31)は、大阪で日本人父と比人母との間に生まれたものの、両親の離婚を機に3歳のときに母と共に比に渡航、5歳からDAWNの支援を受けて育った。フィリピンで育ち日本語が話せない今井さんにとって、日本で育ちフィリピン語が話せない主人公・純悟は正反対の存在でありながら、同時に自分もそうなっていたかもしれない人物だ。

 上映後のトークセッションで、今井さんは「純悟と私は正反対の境遇であるにもかかわらず、すごく共感できた。私も子どもの頃は出自のせいでいじめにも遭ったし、特に十代の頃は自分が望んだわけでもない己の境遇を恨み、周りの人全てを責めたこともあった」と振り返った。さらに「劇中の比人のリアルな描写には感銘を受けた。純悟の母親や比人ホステスの明るく、勤勉で、思いやりのある一面をしっかり描いてくれたこともうれしかった」と語った。また、純悟の母親の偽装結婚相手が「人に言えない過去があるが、人情味もある市井の中年男性」として描かれたことに対して、「あまり悪い描かれ方をされていないことに安心感を覚えた」と当事者の1人としての感想を述べた。

 飯塚監督は「日本にいる2世の方や、比人女性にはたくさん取材を重ねたが、フィリピンでは取材ができなかった。こうしてフィリピン側の当事者からそういう感想をいただけたのはすごくうれしい」と喜びを語った。

 ▽父に認められる必要性

 セッションの最後にマイクをもったヌキDAWN代表は「主人公の純悟も怒っていたが、フィリピンで育った日本人と比人を親に持つ子どもたち(JFC)もさまざまな逆境にぶつかり、怒っていた」と説明。「1999年以降、DAWNは毎年訪日してJFCによる演劇公演を行い、その時に父親を探して面会する事業も行ってきた。ほんの短い時間、ほんの1~2回父親と面会し、自分の子どもだと認められるだけで、JFCの心には大きなプラスの変化があり、生活や授業態度がよくなった。そうした子たちは年下のJFCにも良い影響を与えた」とし「劇中でも純悟の怒りは父親に認知されていた事実を知ったのを契機に和らいでいったが、父親に自分の存在を認められるということは、子どもたちにとって重要なことだ」と強調した。

 さらに比から日本への出稼ぎ動向について、「フィリピンから日本へのエンタ-テイナーとしての出稼ぎ者は2005年の興行ビザ発給厳格化に伴い、年7千人ペースから年千人まで減少していた。ところが最近再び、エンターテイナーとして日本に出稼ぎにいく比人女性が増加している」とし「その中には旅行者として日本に渡航し、そのまま就労する女性もいる。この映画をもっと上演することによって、日本で働く比人女性の実態とJFCが直面する困難への理解が広がってほしい」と述べ、本作を通じたJFC問題に対する理解促進に期待を寄せた。

 ▽「所長の席がなくなるほどは初めて」

 当日、劇場のチケット売り場では、上映時刻の1時間前には劇場につづら折りの長蛇の列ができ、無料チケットは完売、補助席を含め300人以上の観客が劇場を埋め尽くした。鈴木所長は「私が所長になって以来、映画祭で所長の座る席がなくなるほど観客が集まったのはこれが初めて。上映途中で帰る人も見あたらなかった」と手応えを語った。

 トークセッションでも盛り上がりをみせた。「怒れる多重マイノリティー」を熱演した堀家さんには、役作りに関する質問が寄せられた。堀家さんは、母親のいない家に1人でいる感覚をつかむために劇中の家に1カ月1人で暮らしたことや、恋人・優助役の篠原雅史さんとデートしたときに味わったゲイに対する嘲笑の経験、母親役のガウさんとの緊張感を出すためにあえて撮影外でも冷たい態度で接したことなどを飯塚監督と共に説明した。また、2つだけ覚えたフィリピン語の一つという「サラマット・ポ(ありがとう)」を随所に挟んで観客の心をつかんだ。飯塚監督が「堀家くんはフィリピンでの芸能活動を考えている」と明かし「応援よろしくおねがいします」と呼びかけると、会場からひときわ大きな歓声が上がった。

 3日を皮切りに上映が始まった「世界は僕らに気づかない」は全国6劇場で公開される。マンダルーヨン市シャングリラプラザ・レッドカーペットシネマでは今月7日(午後7時)、9日(午後4時)、ケソン市のフィリピン大フィルムセンターでは22日(午後7時)、26日(午後4時)、3月1日(午後7時)、セブ市のSMシーサイドシティでは21日(午後4時)、23日(午後7時)、バギオ市のSMシティ・バギオでは24日(午後4時)、29日(午後7時)、イロイロ市のSMシティ・イロイロでは28日(午後4時)、3月1日(午後7時)、ダバオ市のSMシティ・ダバオでは24日(午後7時)、29日(午後7時)に公開予定。(竹下友章)

詳細は以下の公式サイトから。

https://japanesefilmfestph.jfmo.org.ph/film-lineup/angry-son/

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