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10月12日のまにら新聞から

「専門家育成は待ったなし」 名古屋大総長らが大使公邸訪問

[ 1544字|2023.10.12|社会 (society) ]

名古屋大学の杉山直総長をはじめ同大学大学院や、比大ロスバニョス校の関係者らが、日本大使公邸を表敬訪問した

越川和彦大使(左)と名古屋大学の杉山直総長=10日午前、首都圏マカティ市の大使公邸で岡田薫撮影

 名古屋大学の杉山直(なおし)総長をはじめ同大学大学院や、フィリピン大ロスバニョス校(UPLB)の関係者ら約15人が10日、首都圏マカティ市の日本大使公邸を表敬訪問した。名古屋大は2014年からアジアサテライトキャンパス事業を開始。15年にはUPLBとの間でも始まり、現在6カ国で同事業を展開している。現地で学生が働きながら、名古屋大の博士後期課程を遠隔・対面式で履修できる仕組みを整えてきた。

 宇宙物理学や宇宙論を専門とする杉山氏の同大総長就任は約1年半前。越川和彦大使との懇談は宇宙に関する話題で始まり、冒頭から打ち解けた様子だった。杉山総長は「政府や大学、国際機関で働く人たちが、現地にいながら名古屋大の博士号を取れる」と事業の利点を説明。設置済みの国際開発、生命農学の両研究科に加え、UPLBの協力を得て、土木工学、環境学の両コース増設をも視野に入れる。

 また杉山総長によると、事業全体の修了生は43人で、比では9人を輩出。修了生には、名古屋大が古くから関係を築いてきた比の国際稲研究所(IRRI)で働く人や大学の幹部もいるという。「日本の他の大学も事業の様子を聞きに来ているので、負けてはいられない」と力を込めた。

 一方、越川大使は、比では現マルコス大統領の下で農業の優先度が高まっている点を紹介し、「専門家の育成は待ったなし」と指摘した。「素人目に見ても、フィリピンは非常に肥沃で、耕作地にすればコメの生産がぐっと上げられる余地がまだある」とし「灌漑施設や適切な肥料といった基礎に加え、全体的な農業のプラリングが足りないと思う」との持論を語った。輸入米に頼る比の現状の中、「自給できるポテンシャルや環境はある」とも強調した。

 また、日本の政府開発援助(ODA)を通じた鉄道といった基幹インフラ支援にも言及。比人が「自力で発展させていくための人材育成は急務」

であり、「学術レベルでリードする専門家育成への期待は大きく、両国の将来にとって重要」との認識を示した。そして「日本の大学も海外の優秀な人材を引きつけないと将来は暗い」との思いを口にした。

 

▽リアルなキャンパス

 実際にサテライト校の指導教員をした経験を持ち、自身の研究も含め、比を頻繁に訪れるという名古屋大学大学院生命農学研究科の大蔵聡(さとし)教授によると、名古屋大とUPLBとの間では元々、共同研究や人材交流を通じて関係性が築かれていた。名古屋大が事業を始めるにあたり、「実態としてのリアルなキャンパスを置かせてくれるようUPLBに協力をお願いした」という。

 それによって比人学生は「UPLB内で研究活動を行い、学位論文を書いて(名古屋大の)学位がもらえる」。また、同大の指導教員がUPLBを訪問して授業を行う頻度について、大蔵教授は「指導教員によって違いはあるが、年に4、5回は来ていた。学生も年に2週間は日本でスクーリングすることから、なるべくコンタクトをとりながら研究指導してきた」と自身の経験を語った。

▽ユニークな仕組み

 今年度の入学生4人は前日9日にUPLBの講堂で入学式を迎えていた。2人が国際開発、2人が生命農学を専攻している。その中で国際開発の「貧困と社会政策」を学ぶ予定のメルウィン・サラザールさんは、上院経済計画事務所の事務局長を務める。名古屋大を選んだ理由について、「今の仕事を継続しながら海外で博士課程を取れるデザインがユニークで、自分で探した中では米国や欧州にもないものだった」と話した。

 名古屋大からの一行は3泊4日の日程で、UPLBや大使公邸を訪問した他、フィリピン大学機構を統轄するアンヘロ・ヒメネス機構長との面会も行った。(岡田薫)

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