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3月8日のまにら新聞から

「船使えない状況にしない」 初の機関整備WS開催

[ 2176字|2023.3.8|社会 (society) ]

マニラ市南港で海保職員を迎えPCG巡視船の機関整備に関するワークショップ開始

日本供与の97メートル級巡視船の機関部を視察する髙橋大亮上席派遣協力官(中央)と説明するパシワット2等海上保安正(右)=6日、竹下友章撮影

 首都圏マニラ市南港で6日、海上保安庁職員を迎え比沿岸警備隊(PCG)巡視船の機関整備に関するワークショップ(WS)が開始された。同ワークショップは、昨年日本が円借款を通じ供与したPCG保有船で最大のBRPテレサマグバヌア=97メートル=で実施。9日まで行われる。海上保安庁が海外の巡視船の機関整備に関して職員を派遣して協力を行うのは今回が初めてとなる。

 海保からは、外国海上保安機関に対する能力向上支援専従部門であるモバイルコーポレーションチームの髙橋大亮上席派遣協力官が派遣された。また、海保から国際協力機構(JICA)に出向し長期専門家として比沿岸警備隊(PCG)の巡視船艇運用整備計画プロジェクトを手掛けている小野寺寛晃3等海上保安監も参加。PCGからは同日が船長任期最終日だったアーウィン・トレンティーノ3等海上保安監(中佐)、同船機関科所属のチャーリー・パシワット2等海上保安正(中尉)のほか、約20人のPCG職員が参加し、巡視船内で同船の整備状況について報告と意見交換を行った後、機関部を中心に船内を視察した。

 

 ▽日本の強み

 PCGの現在保有する外洋で海上法執行や海難救助業務を担う主要な巡視船は全て外国製。日本供与の97メートル級2隻のほか、2000年代初めに豪州から供与された56メートル級4隻、同35メートル級4隻、17年フランス供与の83メートル級1隻、日本が16~18年にかけ供与した44メートル級10隻など20隻あまりだ。

 そのうち何隻が運用可能なのかとのまにら新聞の質問に対し、パシワット機関長は「豪州から供与された56メートル級で稼働しているのは現在1~2隻。約10隻の巡視船が故障しており、修理待ちの状態だ」と述べた。

 また、トレンティーノ船長は記者団に対し、PCGが日本に97メートル級巡視船をさらに5隻供与するよう正式に要請を出していることを明らかにした。その目的について「西フィリピン海(南シナ海)だけでなく、マレーシアやインドネシアとの境界がある南方海域、台湾との境界がある北方海域にも大型巡視船を展開し、海洋における比のプレゼンスを維持する必要があるためだ」と説明した。

 関係者によると、先進国が途上国に船艇を供与しても受入国側にそれを維持・運用するノウハウがないため故障した船艇が「港の置物」になっている例は多々あるという。

 小野寺氏は「比の巡視船はただでさえ少ない。だからこそ今持っている船艇を十全に活用する必要がある。整備は地味で目立たないが、整備なしでは船艇を長期運用することは不可能。日本供与の船艇については、『船はあるけど使えない』状況には絶対にしない、という決意で取り組んでいる」と語った。髙橋氏は「巡視船を供与する国は世界中にあるが、メンテナンスまで含めた長期的な支援をしているのは日本くらい。これが日本の強みだ」と説明した。

 ▽課題の洗い出し

 ワークショップ午前の部ではPRBテレサマグバヌア整備担当のパシワット氏が船の機関・機器ごとの整備状況を説明。同巡視船を造船した三菱造船の技師から「引き渡し前後の約2カ月間の訓練を受けることができたが、半年に1回、1年に1回の大きな整備業務については十分な訓練を受けておらず、やり方が分からないものも多い。こうした部分へのアドバイスが欲しい」などと現状を説明した。

 髙橋氏は「PCG整備科職員が全ての整備を行う必要はない。船員がやるべき整備とドックや造船所でやるべき部分がある。そこをまず明確にする必要がある」と助言した。午前の部で髙橋氏は「機器管理システム(FMS)に機器交換時期は表示されるのか」「タンク管理を機関科が行っているのか」「ヘリを使った訓練はしているか」「これまで故障を経験したことがあるか」など積極的に質問をしながら、PCGによる同船整備の現状を確認。整備用の測定器である「ダイヤルゲージ」がないと説明を受けたときは驚いた様子も見せた。

 午後の部では実際に機関部を点検して各機器や計器を確認。髙橋氏は機関部視察後に記者団に対し「最新の巡視船なので様々な計器があるが、それのチェックはあまりやっていないようだった。まずは出来ていないところの洗い出しを行い、助言を行うとともに、本庁に持ち帰って対策を議論したい」と語った。

 整備に関してPCG職員に特に伝えたいこととしては「故障した後、ここでこうしなかったら壊れなかったのに、ということはよくある。それをいかに事前に回避するか。一言で言えば予防整備のやり方を伝えたい」とし、さらに「通常を知らなければ異常は分からない。毎日機関に付着する油を拭いているといつもより油が多いとか、常に温度計を見ていると通常より温度が高いとか、そういうことがきっかけで異常は発見できる。異常に気づく能力を高めるには、毎日常に見て、普通の状態を把握することが必要だ」と日常点検の重要性を強調した。

 このワークショップと並行して、1月の23~3月30日まで日本供与の97メートル巡視船2隻の機関科職員ら32人を対象に、商船三井系の船員養成機関マグサイサイ・インスティテュート・オブ・シッピング(MIS)で機関運用整備研修も実施されている。(竹下友章)

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