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10月29日のまにら新聞から

日本供与船でえい航訓練 日米沿岸警備当局が共同指導

[ 1668字|2022.10.29|社会 (society) ]

比沿岸警備隊が巡視船をえい航する訓練実施。日米の海上保安庁が共同で指導

日米沿岸警備隊の指導の下、えい航訓練を行う比沿岸警備隊=28日午前、マニラ湾で岡田薫撮影

 フィリピン沿岸警備隊(PCG)は28日、PCG本部があるマニラ市南港から4・56海里沖合で、いずれも日本供与の97メートル級巡視船を使用して44メートル級巡視船をえい航する訓練を実施した。同訓練は日本の海上保安庁(JCG)と米コースト・ガード(USCG)が10月23~11月5日にかけて実施中のPCG能力向上支援の一環で、PCG隊員81人に加え、USCGから8人、JCGからも5人が見守る中で行われた。

 今回邦人メディアに公開されたのは、えい航する側の97メートル級BRPメルチョラ・アキノ(MRRV―9702)で、220メートルのえい航索でけん引されたのは44メートル級BRPシンダガン(MRRV―4407)。救命索発射器から綱が大音量を立てながら、向かい合った44メートル級に飛ばされた際、視察で乗り込んでいた松田賢一次席公使らがその音に驚く場面も見られた。

 約1時間の訓練は97メートル級に搭載された2隻のRHIBS(搭載艇)のうち一隻が、訓練区域の海上航路を確保する中、90度ターンする高度なえい航作業も行われた。訓練後のブリーフィングで、PCGのパトリック・ババグ中佐は「USCGとJCGは過去数年間、われわれのために時間と資源を犠牲にしてくれている」とし「幸運に感謝している」との気持ちを表した。

 海上保安庁内に2017年に設置され、海外での海上保安能力向上支援を主な任務としている「海上保安庁モバイル・コーポレーション・チーム(MCT)」の国際戦略付、松尾秀昭上席派遣協力官は訓練について、「えい航索をはずす際にテンションが掛かっている状況だった」とし「ロープをたるませたり、たるませ過ぎずといった状況を見極める」大切さを説いた上で「一番危険な訓練が終わった」と胸をなで下ろした。また「今後もUSCG、PCGともに連携していく」との思いを伝えた。

▽他国にはない支援規模

 4月に日比間で実施された同様の訓練時に続き2度目の渡比となるMTCの細田彰則さん(36)によると、今年5月に日米間の海上保安分野で結ばれた共同取組み「サファイア」は、外務省が推進する「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を資する位置づけとされる。今回の訓練は6月に続いてサファイアの枠組み内で行われた比で2度目の訓練。比への能力向上支援は他国にはない規模で進められている。

 細田さんは「6月には供与船を製造した三菱造船さんにも関わってもらっていた。今回はPCGが訓練計画のプラニングを担った」とし「6月にもえい航訓練は行っていたが、ロープの接続方法から何から難易度が上がっている」と明らかにした。

 直近ではスリランカの沿岸警備隊を指導していた細田さんは、今年4月にも渡比し、USCGが実施したPCGへの訓練の一部として、隊員への逮捕術の基本を教授したという。

 今回の訓練期間後半では船内における逮捕術の実演訓練が行われる予定で「本格的な形での逮捕術の訓練は初めてになるだろう」と話した。

 JCGの国際戦略課で比を専門とする若林健一さん(43)は、29日に別のMCTと入れ替わりで帰国予定。実習生時代に3~4日滞在して以来、約20年ぶりに比の土を踏んだ。MCTの活動の意義について、「ただモノを供与するだけでは、せっかくのモノがいかされずに終わってしまう。ハードの支援に加え、国際協力機構(JICA)などによる支援スキームといった技術・ソフト面での支援が重要だ」との認識を示した。

 USGCの職員は、えい航後のフィードバック時などに同席していたが、日本の供与船ということもあり、積極的に指導を行っている場面は稀だった。一方で、USGCナビゲーションセンター所属のブランディー・ランドルフさんは、搭載艇の1隻に乗船し、チューインガムを噛みながらも比人操縦士に対し、巧みにハンドル操作を指導していた。日米の指導法の違いについて「双方の教え方に優劣はない。唯一の違いといったら言語だ」と笑みを見せた。(岡田薫)

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