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4月2日のまにら新聞から

「地域の誰もが尊敬していた」 殺害された邦人男性を悼む隣人たち

[ 2544字|2022.4.2|社会 (society) ]

26日に姪と共に殺害されたモリ・ヤスノリさんの比での足跡と殺害に至る経緯が明らかになった

容疑者が住んでいたモリさん宅の向かいの建物=1日、竹下友章撮影

 「この地域の誰もが彼を尊敬していた。できることなら、犯人を皆で私刑にしてやりたい」――

 3月26日に姪と共にその「恋人」の男によって刺殺された72歳の日本人男性モリ・ヤスノリさん=漢字不明=の住んでいたパシッグ市マラガンビレッジでは1日、非業の死への悲しみと、容疑者への怒りに満ちていた。

 この事件の捜査を担当する首都圏警察パシッグ署のジョエル・シソン警部補は同日、まにら新聞の取材に対し、容疑者の男がモリさんとその姪を殺害したことを認めたと明らかにした。

 また同警部補によると、モリさんは2001年に比人妻ルイサ・サルバドールさんと結婚し、その年から妻の家があった同ビレッジに住んでいた。

 サルバドールさんは結婚前に2人の姪の養母となっており、モリさんは妻とともに当時中高生だった姪2人を養父として世話した。サルバドールさんに先立たれた後も、2人を育て上げた。

 姪の1人、マリエ・サルバドールさんは結婚を機に家を出たが、未婚のアンナマリエ・ダルソンさん(39)は同ビレッジ内で公立学校の教員として働きながらモリさんと同居していた。

 姪も養父同様、礼儀正しく親しみがあり、隣人たちに愛されていたと近隣住民は語っている。

 ▽ボーイフレンドの登場で暗転

 2人の生活に暗雲が差し掛かったのは、ダルソンさんにボーイフレンド=クリスチャン・ブルバル容疑者(32)=ができてからだ。

 ある近隣住民は「(ボーイフレンドができた後)彼女の頬や腕にアザができているのを見るようになった」と証言する。ダルソンさんの同僚から聞いた話として、ダルサンさんが「自分の身に何か起こったら、誰のせいか分かるでしょう」と意味深な発言をしていたとも明かした。

 さらに容疑者は度々ダルソンさんに金銭を要求していたという。

 2人が交際を始めた2021年初めごろはモリさんの家も訪問していたというブルバル容疑者。ところがモリさんが車の修理を容疑者に依頼した際、容疑者の提示額が以前別業者に依頼したときの金額(2万ペソ)より高額だったことからトラブルとなり関係が悪化。モリさんは容疑者を家に入れるなと厳命したという。

 しかしその後も姪のダルソンさんとブルバル容疑者の関係は続く。ダルソンさんの取りなしでブルバル容疑者は昨年4月、モリさんの自宅の前に立つ家屋の3階の部屋を特別に前金無しで借りていた。

 しかし家主は「その後ダルソンさんは容疑者と別れようとしていた」と証言する。

 

 ▽入念なアリバイ作り

 警察の調べによると、26日未明、ダルソンさんと容疑者は口論をしながら立入禁止のはずのモリさん宅に入っていった。

 容疑者への調書によると、2人が2階で「ケンカ」を続けていた最中、モリさんがナイフを持って容疑者を威嚇。興奮した容疑者はナイフを奪い取り、モリさんの喉、胸、背中を刺して殺害。「怒りが収まらなかった」として「その後に」ダルサンさんを絞殺したという。

 警察の調べでは、容疑者はその後、自分が使ったナイフを洗浄し、モリさんの遺体の手に握らせ、血の付いた自身のシャツを着替えた。

 近隣住民は同日午前1時ごろから午前8時ごろにかけて何度もモリさん宅を出入りする容疑者の姿を目撃している。

 同日午後1時ごろ、容疑者は何度も、すでに息絶えているモリさんの自宅ゲートをノックする姿を見せている。その行為は翌27日まで続き、同日午後、モリさん宅を訪ねてきたモリさんの現在のパートナーに会った際、「自分もモリさんに会えないから自分が住んでいる部屋で待つよう」助言もしている。

 その後、容疑者は部屋を去る。警察は容疑者が、2人の死を自殺に見せかけ、自分が犯人でないというアリバイ作りを行ったと見ている。

 28日になってモリさん宅を訪問したもう1人の姪のマリエ・サルバドールさんが2人の遺体を発見。警察はサルバドールさんに捜査への協力を依頼した。

 警察の指示を受け、マリエさんは容疑者に「モリさんとダルサンさんが自殺をしたから、警察署でその証言をしてほしい」という囮(おとり)のショートメールを発信。29日、容疑者が狙い通り警察署に現れたところを逮捕した。

 警察は容疑者の職業について「定職につかず、配達などのパートタイム労働を転々としていた」と説明。また、近隣住民は、容疑者は過去に麻薬使用の噂もあったと語っている。

 

 ▽模範的邦人の非業の死

 モリさんの自宅から数メートルの場所でアイスクリームや日用雑貨を販売するアルジョン・カヒバイバヤンさん(42)は隣人として20年来の仲。モリさんの人となりを「比人を尊敬し、住民皆に尊敬される人物だった」と語る。

 「『ロロ』(おじいさん)はいつもにこやかに挨拶し、ときに冗談を言っていた。冗談と言っても人を揶揄(やゆ)するのでなく、積極的に親しくなろうとするのが伝わってきた。クリスマスなどの日には近隣住民にプレゼントを配っていた」と故人を偲(しの)んだ。

 モリさんの自宅の前でサリサリストア(小規模雑貨店)を長年営むマリー・ディノイさん(57)は、モリさんがこの地区に移り住んできた2001年来の友人という女性だ。

 「自分は英語が苦手なのでちゃんとした会話はできなかったが、優しい態度で接してくれた。家の前でタバコを吸った後は自分の吸い殻と一緒に通りのゴミも一緒に掃除し、ゴミの掃除人を見かけると、労をねぎらいソフトドリンクをおごっていた。困った人がいたら相談に乗り、薬を買い与えたり、金銭的援助をしていた。最愛の隣人だった」と振り返った。

 ディノイさんによると、モリさんとダルソンさんの遺体はサルバドールさんら比の親類が引き取り、パンパンガ州で荼毘(だび)に付されたという。

 比人を愛し近隣住民に愛された、何の落ち度も見当たらない邦人男性の死。シソン警部補は在比邦人への注意喚起として「フィリピンではたとえ知り合いでも家に入れてはいけない。簡単に人を信用せず、人に接する際はいくら注意しても注意しすぎることはない」とコメントした。(竹下友章、ロビナ・アシド)

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