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8月10日のまにら新聞から

インタビュー 田舎者が売りの「人懐っこいヤクザ」 ドゥテルテ政権の5年を振り返る ハワイ大パトリシオ・アビナレス教授に聞く

[ 1728字|2021.8.10|社会 (society) ]

ハワイ大のパトリシオ教授に「ドゥテルテ政治」の本質を聞いた

オンラインでインタビューに答えるハワイ大のパトリシオ・アビナレス教授

 2016年6月末に就任したドゥテルテ大統領の任期はあと10カ月余となった。長年国内外からフィリピン政治を見続けてきたミンダナオ出身の社会政治学者であるハワイ大のパトリシオ・アビナレス教授に「ドゥテルテ政治」の本質を聞いた。(聞き手は岡田薫)

 ─ドゥテルテ大統領とはどんな政治家か。

 ドゥテルテ氏は地方から中央に躍り出た政治家だ。この意味は大きい。首都圏でなく、地方が生んだ指導者を比人は知った。首都圏の研究者はマニラについてばかり学び、論じていたためドゥテルテ大統領の誕生に驚いた。中央では大統領を「殺人者」「汚職まみれ」などと言う。一方、地方で彼は「タタイ(お父さん)ディゴン」でありアイドルだ。街角の人懐っこいヤクザをイメージしてほしい。私のおばたちは酔うとドゥテルテ氏とそっくりな口調になる。そうした親近感がある。英語も流暢さより地方の人が話すように話している。「田舎者」の「シンプルさ」を売りにしてきた。

 ─比のエリート層には嫌われているようだが。

 首都圏のエリートを指してドゥテルテ氏は「地方の我々は貧しい」と強調してきた。「マニラの黄色い連中(アキノ派)とは相容れない」と、差別化を刷り込みながら。実際には大統領自身アキノ陣営に知り合いがいるし、マルコス陣営とも親しい。大統領が地位を保つには中華系など有力政治家一族のサポートも必須だった。

 ─現政権の功罪は。

 大学の教育無償化は大きな成果。米国が嫌いだと言って中国と近づいた最初の大統領でもある。しかし、コラソン・アキノ政権以来の民主主義の支柱や遺産を破壊した。選挙という民主主義は残っているが、人々は主義主張のために投票しようとしなくなった。報道の自由や諸機能を骨抜きにし、汚職や問題まみれの人間を積極的に起用してきた。現政権を革命的と捉える人もいるが、社会や政治は「革命的」な変貌を遂げてはいない。

 ─「麻薬戦争」をどう見るか。

 ミンダナオ島で生まれ育つと分かる感覚だが、警察は当たり前に殺人を犯す。刑務所は余計な費用が掛かるからだ。麻薬問題は深刻だが、「戦争」は不要だと思う。一方、海外から送金する比人は国に残した家族の平穏な生活を望んでいる。特に地方の家族の共通の不安は「道端にいる麻薬常習者」だ。大統領は彼らを「殺害して平穏な日常生活を与える」と約束した。大統領の取り巻きには麻薬取引に関わる者もいるが、ダバオ市長時代の延長で、大衆に治安を約束した。麻薬戦争が「貧者への戦争」との批判を受け、それをかわすために有力政治家に配慮しながら、金持ちの子どもや市長を選んで殺害もしてきた。地方では「私の家族を殺さない程度にやってくれ」が本音だ。それが現政権への高支持率にもなっている。

 ─来年の選挙戦の行方をどうみるか。

 地方にいる私のおばや40人いるいとこ全員がドゥテルテ氏支持で、不支持は私ぐらいだ。なぜドゥテルテ氏が彼らの「希望」なのかを「恐れからくる同調論」で説明することは難しい。

 地方で選挙について問えば「政治家はみな泥棒で良い泥棒と悪い泥棒しかいない。ドゥテルテは良い泥棒だ」との答えも返ってくる。選挙の本質は金。票買いは未だに続いており、相場は1人500ペソからだ。

 ─野党に勝機はあるか。

 野党はおそらく勝てないだろう。野党勢力の大半がマニラに住み続けている。誰もが「いい人」だが、マニラ市のモレノ市長のようなモラルは殊に地方では通じない。

 一方、マニー・パッキャオ上院議員はサラ・ドゥテルテ市長を知名度で凌ぐ。それに億万長者だ。サラ氏の選挙資金は支持者が工面するのだろう。私の地元では残念ながら「主義主張は金の後だ」との声が一般的だ。現政権のプロパガンダマシーンは大衆に直に訴えかけて、考えず、反抗しない「大衆」を量産していく。その意味でも民主主義は崩壊の瀬戸際にあるといえる。

 PATORICIO ABINALES 1956年、西ミサミス州オサミス市生まれ。フィリピン大ディリマン校で歴史を学び、米コーネル大で東南アジア政治学博士号取得。2000年から京都大東南アジア研究所で教職に。11年より現職。

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