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9月12日のまにら新聞から

「バリサカン長官を農相に」 コメ価格統制問題で財務相

[ 1392字|2023.9.12|政治 (politics) ]

財務相が、農相を大統領の兼務からバリサカン国家経済長官に交代する案を支持

 ジョクノ財務相は11日、農務省主導で策定され1日に発表されたコメ価格の上限を設定する大統領令について、「(経済政策の中心3閣僚である)財務相、国家経済開発長官、予算管理相に相談がなく行われた」と明らかにした。同相は「われわれは日本に出張中で、発表を知ってショックを受けた」と発言。さらに、マルコス大統領=農相兼任=に代わりバリサカン国家経済開発長官を農相とする案を「手堅い提案だ」と評価し、大統領の農相ポスト「禅譲」に賛同する姿勢を示した。比各メディアが報じた。

 今回のコメ価格統制令は、経済の原則を無視しているなどとして経済団体や農業団体、識者から非難の声が上がっていた。

 財務省は同日、「大統領を支持している」との声明を出し、その中でジョクノ氏は「競争的市場環境で価格操作をしてはいけないことは、大統領も分かっている」「買い占めによる不当な価格操作に対処するため、大統領はこの方法に踏み切らざるを得なかった」などと擁護。その上で、「価格統制は一時的措置であるべきだ」と強調。支持表明の体裁で内容上は価格統制に消極的立場をにじませた。

 近代経済学では、多数の生産者が存在するコメなど穀物市場は競争市場の一つとされ、需要と供給が均衡する価格が社会全体の経済厚生を最大化するとされる。均衡価格以下の価格を強制した場合、供給者側の操業停止・市場退出が発生し、需給ギャップが拡大、過少供給が発生する。

 現実にも、11日には首都圏マニラ市トンドで複数の小売業者がコメ販売を停止したとの報道が出始めた。それを食い止めるため、政府は小規模コメ小売を対象に給付金の支給を11日に始めた。

 ただ、理論上、仮に政府設定価格で各事業者が損益分岐点を超えるまで補助金を出したとしても、消費者・供給者が得る利益(余剰)の総和より政府の損失の方が大きくなる「死荷重ロス」が発生するため、経済合理性への疑問は拭いきれない。

 ▽コメ関税引き下げへ

 コメ価格高騰への対応として、ジョクノ財務相は会見で、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国および関税の最恵国待遇国からの輸入米への関税を現行の35%から一時的に0~10%に引き下げることを提言。財務省による提案は来月中にも承認される見込みであると明らかにした。比の関税法では議会の閉会中に限り大統領に関税を操作する権限を付与している。

 国家経済開発長官経験者で比を代表する農業経済学者のシエリト・ハビト教授(アテネオ大、米ハーバート大経済学博士)は、英字紙インクワイアラーのコラムで今次のコメ価格上限設定を「需給の法則をかなぐり捨てる所業だ」と非難。その上で、価格統制の結果として、品薄だけでなく、粗悪品の流通、コメ等級の偽り、闇市の横行などの帰結が生じるとした。

 さらに、政府が移動式公設市場「カディワストア」で一部採用している、政府が買い上げた農産品を直接消費者に販売する対処法については「誰にも利益をもたらさない無駄な努力」と両断。コメ価格問題への対処法として①コメ関税引き下げ②価格競争を阻害する取引カルテルの取り締まり③農家の生産性向上――を挙げた。

 同教授はバリサカン氏の農相スライド案について「農務次官も経験しており申し分ない経歴。貧困研究では比で最も優れた専門家だ」として支持を表明している。(竹下友章)

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