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役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第13回 ・ 3度目の正直、離陸なるか

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 3月27日に格付会社のフィッチ・レーティングがフィリピン国債の格付けを「BBプラス」から「BBBマイナス」へ引き上げ、待望の投資適格を獲得しました。そして、5月2日にはスタンダード・アンド・プアーズ(S&B)も「BBBマイナス」への引き上げを発表しました。その結果「BBプラス」と投資不適格(ジャンク債)に据え置いている格付け大手は、ムーディーズ・インベスターズ・サービスだけとなり、今後、ムーディーズ社の格付け引き上げが待ち望まれるところです。

 ここで、アセアン諸国の格付け状況を見ておきましょう。今回のS&P社の引き上げにより、フィリピンとインドネシアとの間で、逆転現象が生じています。

 これで、いよいよフィリピンが貧困から抜け出し、発展途上国から中進国入りを目指し経済発展に向かって離陸する、との期待が高まってきています。今度こそ、うまく離陸してほしいのですが、過去に二度、失敗した経験がありますので、慎重に経済政策のかじを取る必要があります。

 一度目は、スウェーデンのノーベル経済賞学者グンナー・ミュルダールが、戦後20年余りたった1968年に「アジアのドラマ」という論文を執筆し、アジアの経済成長をリードするのはビルマ(現在のミャンマー)とフィリピンである、と予言したときでした。

 その根拠は、戦前の宗主国である英国と米国が残した、植民地時代の教育制度や社会インフラなどの遺産が、経済発展に大きく寄与するであろうという見解でした。残念ながら、その後ビルマでは軍事政権が、フィリピンではマルコスによる独裁政治が経済発展を大きく阻害し、今日に至りました。両国とも今また、経済発展への離陸期を迎えているのは、歴史の皮肉としか言いようがありません。

 二度目のチャンスは、ラモス政権時代にやってきました。マルコス独裁政権を打倒し、民主化運動を受け憲法改正を成し遂げたコーリー・アキノ政権の後を引き継ぎ、規制緩和や資本政策の自由化で、経済発展への離陸が期待されました。

しかし、電力不足と97年に起きたアジア通貨危機の影響による為替相場の激変により、思うような実績が上がらず、次のエストラーダ政権へと交代してしまいました。

 結局、この時期に日系・米系の自動車メーカーの工場を誘致するタイとの競争に敗れ、製造業の基盤拡充のチャンスを失いました。その後、中国が世界の工場として台頭し、フィリピンにあった携帯電話やノートパソコンといった最終製品の組立産業が流出していきました。

 さて、今回の格付け引き上げで、S&Pは今後の課題をいくつか挙げています。まず、1人当たりの国民所得が2850ドル(2013年推計)と、同一格付け諸国と比較して極端に低く、過去10年の平均伸び率も3・3%と低い水準にとどまっています。経済成長を上回る人口の増加と、貧富の格差拡大が主な要因と思われます。

 また、投資部門の伸びが小さく、公共投資の増額や規制緩和を通じた内資および外資による民間設備投資の増額が期待されます。2015年のアセアン域内経済統合を控え、フィリピンは比較的競争力の弱い自動車や家電の国内生産を守りながら、将来の基盤となるような製造業を誘致していく必要があります。

 去る3月には、JICA(国際協力機構)をはじめとする日本政府機関とフィリピン政府合同で、日本の造船業・船舶部品メーカーの投資視察ミッションを組織し、フィリピンへの投資の優位性を理解していただきました。日本の造船業と当地の製造業の連携を計り、造船業をフィリピンの主要産業に育成できたら、両国間で「ウィン・ウィン」の関係を築くことができると信じています。

 トライシクルの電動化をはじめ、他国がいまだに手を着けていない新業種・新産業を積極的に誘致していくことが、この国の生き残る道だと思います。

 格付けアップに浮かれることなく、地道に製造業の基盤を拡充して雇用機会を創出し、貧富の格差解消を目指す経済成長政策が継続されるよう、強く希望しています。

(2013.5.6)

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