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役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第10回 ・ 投資家のレーダーに映るものは?

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 先月27日に世界経済フォーラム・ダボス会議から帰国したアキノ大統領は、自身の汚職撲滅キャンペーンが先進各国から評価され、投資家のレーダーにフィリピンが映るようになった、と帰朝報告しました。同時に、ダボスで記者団から、鉱山業や公益事業等への外国資本を規制するフィリピン共和国憲法を改正する必要性を質問され、閣僚達に指示した外資規制緩和の必要性に関する調査結果を待ちたい、と答えました。大統領は、外資による土地保有を禁止する中国の経済発展を例に挙げて、外資規制だけが直接投資の阻害要因ではないと指摘し、直ちに憲法改正に着手する意思がないことを表明しました。

 時を同じくして、国連貿易開発会議(UNCTAD)が24日、2012年世界投資動向調査を発表しました。全世界の外国直接投資額は、2011年の1・6兆ドルから2012年は1・3兆ドルへ減少しました。アセアン全体でも、1150億ドルから1065億ドルへと減少する中、ベトナム、タイ、ミャンマー、カンボジア、フィリピンは前年比増を記録しました。

 この数値をご覧になって、何をお考えになりますか。まず、アセアンが「チャイナ+1」の受け皿として機能しているようです。特に、ミャンマーやカンボジアといった低賃金国が、繊維産業を中心とした労働集約型の委託加工貿易の中国からの移転に貢献しています。同時に、産業基盤の拡充に向けたインフラ投資も活発化している、と推測されます。

 そして、ベトナムと外国投資の獲得競争をしていたはずのフィリピンが、いつの間にか単年度とはいえ、ミャンマー、カンボジアに抜かれてしまいました。フィリピンの最低賃金水準はベトナムより6割以上高いので、労働集約的な事業をミャンマーやカンボジアと競争しても勝てるわけがありません。しかし、部品産業の集積度が低いため、家電や自動車といった組立産業の輸出基地を目指すにも、無理があります。

 フィリピンが外国直接投資を獲得するには、近隣諸国と比べて優位にある、豊富でコストが安定している労働力を武器にするのが得策と考えられます。今後、日本や中国からの移転を検討せざるを得ない中小規模の部品メーカーや、海外展開が進んでいない造船業等の業種を、積極的に誘致する必要があります。

 でも、それだけで充分と言えるでしょうか。フィリピンは投資家のレーダーにどのように映っているのでしょうか。

 汚職が減り、賄賂の要求も少なそうだ。他国では難しい数千人規模の新規採用も可能らしい。ストが少なく、賃上げ要求も厳しくなく、定着率も高くて、労務管理はやりやすそうだ。英語も通じて、人材の質も高く、時間をかけて戦力化することができ、必要とあれば、他国への転勤・派遣も喜んで応じてくれる。ざっと、こんなイメージでしょうか。

 しかし、不安もあります。2016年に任期満了となるアキノ大統領の後任に、同様に透明性の高い政治運営を期待できるのだろうか。国内経済の成長を見越して内需型の投資をしたいのだが、外資規制は永遠に続くのだろうか。

 冒頭に、外資規制に関するアキノ大統領のスタンスを紹介しました。果たして、そんな悠長なことをやっていて、間に合うのでしょうか。近隣諸国は自国の経済発展のために、なりふり構わず、誘致合戦を繰り広げています。

 少なくとも、外資を規制する「ネガティブ・リスト」は改訂するごとに、徐々に削減し、外資への「レベル・プレイイング・フィールド」(内資と外資の非差別化)を達成する方向性を打ち出して行くべきでしょう。そうしないと、せっかく今吹いている追い風に乗り損ねてしまい、置いてけぼりの悲哀をまた、味わうことになるのではないでしょうか。(続く)

(2013.2.4)

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