石破茂首相は30日午後3時すぎ、フィリピン沿岸警備隊(PCG)を視察した。首相はPCGのカバン長官、ディゾン運輸相、同じタイミングで訪比している海上保安庁の瀬口良夫長官、遠藤和也駐比日本国大使などと共に、昨年中国海警局船に体当たりされ船体を損傷しながらも5カ月にわたって南シナの岩礁を監視するなど「最前線」で活動する「BRPテレサマグバヌア」(97メートル、日本から調達)に乗船し、内部を視察。さらに甲板上では、日本が政府開発援助(ODA)の能力向上支援として実施してきた、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)による逮捕術の訓練を見学した。さらに、このタイミングで比に寄港している海上自衛隊の掃海母艦ぶんご(141メートル)、掃海艦えたじま(67メートル)にも乗船、視察を行った。
前日夜に開かれた首脳会談で首相は、海上保安分野で拠点整備、能力向上支援、比日米3カ国による共同訓練の推進などを通じて連携を強化することを確認。共同会見では「東・南シナ海における力や威圧による一方的な現状変更の試みに反対する」と強調し、「ルールに基づく自由で開かれたインド太平洋の実現に向け緊密に連携する」と宣言していたばかり。フィリピンの海洋安全保障へ関与の強化を行動でも示した格好だ。
視察後、PCG巡視船が停泊するマニラ埠頭でぶら下がり会見に応じたディゾン運輸相は「今回の訪問では、日本から97メートル級巡視船の追加5隻の調達の手続きを迅速に進めることを確認した」と発表。
一方、PCGのガバン長官は、「南シナ海で外国艦船のプレゼンスが増し、比への圧力が高まる中で、日本の協力はフィリピンにどう役立つか」との質問に対し、「日本から追加5隻の97メートル級船を調達した後は、さらに広い海域をカバーでき、さらに長期間海上に展開できる。それは(漁民含む)国民の安全確保につながる」と指摘。「石破首相のメッセージは、フィリピンへの支援を首相自ら確約するものだった。言葉だけでなく行動でも明確に示してくれた」と歓迎した。
比日両政府は昨年5月、比政府が日本から97メートル級巡視船を5隻調達するため円借款契約(限度額643億)事業を行うことに正式に合意。ただし、速やかな調達のため以前調達した2隻と同型船と指定しているにもかかららず、肝心の造船会社のとの契約はまだ結ばれていない。
「日本の造船会社との調達契約はいつまでに調印できそうか」との質問にディゾン運輸相は「向こう数カ月以内、おそらくは7~9月期には契約できる」との見通しを提示。ガバン長官は「いくつかクリアしなければならない技術的な問題はあるが、最初の引き渡しは2027年を見込んでいる。それから2~3年で5隻全部調達できる見通しだ」と説明した。
また、「日本に期待する次の新しい協力は何か」という質問には、「具体的なことは議論中だが、洋上訓練などの共同活動の量とレベルを引き上げることで合意している」とした。(竹下友章)