フィリピンの領土最西端の南シナ海パグアサ島で12日朝、中国海警局の巡視船が比漁業水産資源局(BFAR)の公船に放水砲を発射し、後部から衝突した。比政府が南シナ海で操業する比漁業従事者からの魚類買い取りや燃料補給を行う「新漁民英雄の魂(KBBM)」事業の最中に起こった。
比沿岸警備隊(PCG)によると、BFAR船3隻が同日朝、漁民支援事業のためパグアサ島の沖合に停泊していたところ、中国海警局、海上民兵船が危険操船を開始し、午前8時15分に放水を始めた。午前9時15分ごろ、海警船(船舶番号21559)がBFAR船「BRPダトゥ・パブアヤ」に発射した放水砲が直撃。その3分後、同中国船が比船の船尾にぶつかった。比船は損傷したものの、けが人は出なかった。
PCGは「中国船による故意の体当たり」と非難。一方、中国海警局は「比公船は中国側の度重なる厳重警告を無視し、通常の法執行活動中だった中国海警局に危険な接近をし、衝突を引き起こした」と発表。「全責任はフィリピン側にある。中国は南沙諸島とその隣接海域に対して疑う余地のない主権を有している」と主張した。
▽3カ所で補給作戦
同日行われたKBBMで、PCGはサンバレス州西沖のスカボロー礁(比名バホデマシンロック、別名パナタグ礁)、南沙諸島のサビナ礁(比名エスコダ礁)に97メートル級巡視船=日本から調達=、44メートル級巡視船=同=を各礁にそれぞれ1隻ずつ派遣。さらに、「BFARとの協力のもと、バホデマシンロックに6隻、エスコダ礁に5隻の計11隻も追加で派遣された」と発表した。
スカボロー礁では、中国海軍艦568号(ジャンカイ2級フリゲート艦「衡陽」)が「同海域で実弾射撃訓練を警告し、比漁民の間に緊張が走った」(PCG)ものの、PCGとBFARは55隻の比漁船に5万リットル以上の燃料を給付した。
サビナ礁では、中国海軍ヘリが低空飛行で比漁船に威嚇的行動をとったが、比公船は比漁船35隻に4万8000リットル以上の燃料を提供した。スカボロー礁には海警局船7隻、民兵船10隻、サビナ礁には海警局船8隻、民兵船9隻が展開していたという。
比政府は5月にKBBM事業の立ち上げを発表。8月にはKBBMの最中に、比船を追尾していた海警局船と中国海軍艦が衝突する事故が発生。海警局船の船首が大破し、それにより中国側の職員の少なくとも2人が死亡したと報じられた。
マルコス大統領は中国側の威圧的行動で比職員が死亡した場合を「レッドライン」と明言し中国をけん制してきた。フィリピン側に同様の事故が起こる可能性についてPCGのガバン長官は今月、「比職員の操船技術は世界トップクラスであり、比にそうした事故が起こる危険は極めて小さい」と語っている。 (竹下友章)