
両作品の扉ページをひと足早く公開


表紙は2作品のメインキャラクターが殴り合うという、作者同士の普段の姿を想起させるような仕上がりに。扉ページには「シルバーマウンテン」、「ヴァンパイドル滾」それぞれの作品の期待感を高めるイラストが描かれている。
なお去る3月14日には東京・アニメイトシアターで「島本和彦 炎の原画展 Ver.3 トキワ荘編 開催記念 島本和彦×藤田和日郎 炎のトークショー」と題したイベントを開催。トークショー内では来場者だけへのサプライズとして、2人が週刊少年サンデーで連載を行うことが明かされていた。すでにトークショーの様子はイベントレポートとして公開しているが、本記事では新連載に関するトークの模様を紹介する。
来場者への粋なはからい、そして約束を守った観客

イベント中盤、島本が“マンガ家マンガ”を描き続けていることに触れた藤田は「そろそろ違うマンガはどうですか? なんか違うマンガを描いてるんだっけ?」と切り出し、島本も「藤田先生ももしかしたら(新連載が)そろそろなのかなって。準備はしてるの?」と返す。藤田が「もちろんしている」と明かして客席が沸くと、藤田は「俺は君たちを尊敬している。一旦行かなくてもいい原画展に行って、苦労してここに来ているわけだよね?」と今回のトークショーの整理券を手に入れた観客をねぎらいながら「あなたたちに敬意を称して、ちょっと内緒だけどね、少年サンデーで(連載を)やります」と、来場者に向けていち早く新連載がスタートすることを発表した。島本も「藤田さんが『チケットを確保した人たちだけが、心の中で楽しみにできる秘密があるといいよね』と話をしていたの」と補足。実際、4月23日に2人の新連載開始が発表されるまで、SNSでそういった情報が拡散されることはなく、藤田と島本の粋なはからいを受けて、観客はしっかりと約束を守る形となった。
「なあ、新連載ってどうやって始めるんだっけ?」

昨年、モーニング(講談社)で「黒博物館」シリーズの最新作の連載を終えた藤田。島本は「そろそろ(サンデーでの新連載が)来るんじゃないかと思っていた。『藤田と新連載を始めたら面白いんじゃない?』と思って、そんな企画をお情けでサンデーが受けてくれないかなと、甘い気持ちで去年の夏頃にぼーっと考えていたんだよね」と振り返る。すると藤田は「うちの仕事場は仲が良いから、去年の夏も沖縄に行って、海岸を歩きながらアシスタントさんたちとしゃべっていたときに、島本さんから電話がかかってきた」と言い、電話口の島本から「なあ、新連載ってどうやって始めるんだっけ?」と相談されたと明かす。

そんな島本が「別の雑誌でマンガを描くことになったときに、(“マンガ家マンガ”ではなく)オリジナルのマンガを描こうかなと思っても、『仕事場で配信をやっているマンガ家の話を描いてください』と言われて、『俺じゃん!』と思って。ああ……俺はそういうマンガ家になってしまったんだ……。フィクションを求められない……フィクションを描くよりも面白い本人がいるから……」と嘆くと、藤田は「自分で言っちゃってる!」とツッコミを入れた。
島本がいらない雑誌に入るためには、藤田のフリをしないといけない
「やっぱり少年マンガが好き」だと語る藤田は「少年誌はやっぱり好きだなあ。だから(サンデーに)戻ってきたときに、自分自身で『お帰りなさい』と言ってるみたい」と言葉にする。そして「自分はネームに詰まらないタイプ。(連載の準備は)去年の6月から始まって、8月には8話までネームを進めていた。だから『連載が始まるのは今年の秋くらいかね』と言っていたんだけど……」と思い返す。

一方の島本は「さっき言ったような企画を冗談じゃなく受け取ってもらうために、ネームを描いて持ち込みをしようと思った。“藤田流”の少年マンガの第1話を描いて、これは今までの島本和彦じゃないものができたぞ!これはいける!と自信が湧いた」と言うも、「アオイホノオ」の担当編集者であるゲッサンの石田氏は、持ち込みの前日にそのネームを見た際の感想として「島本和彦の新作が読みたいのに、藤田和日郎を意識しまくったものだった」とコメントする。島本は「違うんだよ! 少年サンデーは島本和彦なんかいらないんだよ! 島本がいらない雑誌なのに、そこに入るためには、藤田のフリをしないといけない。トロイの木馬だよ! 『藤田の1話が来たと思ったら、あれ?島本になった』っていう作戦だった」と弁明した。
結局、持ち込み日の当日は朝4時に起床して、新たに1本ネームを描き上げた島本。当日はサンデーの若い編集者にネームを見てもらいながら、「持ち込みの人は、この自己紹介カードを書いてください」と渡されたカードに名前、住所、職業などを書き込んでいったと話す。そのカードの下のほうには「賞を獲ると100万円がもらえます」といった旨の記載があり、島本は「100万円がもらえるとかどうとかってより、これ、連載につながらないやつじゃん?」と気づいたという。
俺は載るあてのないマンガをずっと描いてるんだよ!

それでも「藤田和日郎が新連載をするときに、あわよくば一緒に載りたい!」「泥水をすすっても藤田と同じサンデーに載りたい!」と主張する島本。しかし、サンデーの若い編集者にはことごとく描き直しを命じられ、何度も修正を重ね、「細かい修正を繰り返すとマンガの流れが悪くなる」といった事情から、イチから新しいものを描き直したこともあったという。それでも連載は決まらず、藤田との同時連載を諦めかけたとき、島本のもとには藤田から「島本さん、あの話どうなったの?」という電話が。話を聞いた藤田は同時連載について「面白いじゃん! 俺、今から編集長に電話する」と言い、連載の開始を遅らせることを決めたと明かす。
だが、その頃にはすでに10話分ほど描き上げていたという藤田は「俺は載るあてのないマンガをずっと描いてるんだよ! だから早くしろよって話なのよ!」と檄を飛ばした。島本は「(同時に新連載という)企画としては面白いじゃん。でも今年の1月の時点でまだ(完成している作品が)ゼロだよ? どんな気持ちかわかる? 今から藤田和日郎と戦えるくらい、面白いものをゼロから作らなきゃいけなかった」と心境を口にすると、客席からは「逆境だ、逆境!」と鼓舞する声が上がった。
島本の純粋な疑問


また島本は週刊連載を始めるにあたり、「編集者に言われたことはできるだけ翌日とかすぐに反映させられるように、週刊マンガもできますよ的なオーラを出すために、すごいスピードで対応していた」と述懐。すると藤田は「自分の描きたいものを主張して戦った? 編集に言われたことをすぐに対応できるっていうのは証明したんだよね? だけど、心の中に『こういうものを描きたいから、これはどうしても曲げられないんだ』っていうのはなかった?」と問いかける。島本は「それね、今までやったことない」と反応すると、藤田と客席からは「ええ……!?」と驚く声が漏れる。そんな空気の中で島本は「そんなにどうしても描きたいことってあるの?」と純粋な疑問を口にし、藤田は「あるよ……!?」とよろめきながら「信じられない……!」と絶句した。


そんな島本が連載に向けて奮闘する中、ずっと準備万端だったという藤田。島本は「(準備をしている間に藤田の)いろんな情報が入ってくるの。島本和彦の連載が一緒に始まるってことを聞いて『やる気が出てすごいペンが進む』って、『テンションが上がっていい作品がどんどん生まれている』って情報が来て、俺って藤田に傑作を描かせるためにこんなに苦しんでるんじゃないか!?」と疑心暗鬼に。藤田は「俺たちが一番カッコ悪いのは“両方とも面白くない”だからね。片方だけ人気が出たらまだ御の字。両方とも人気が低迷したらめちゃくちゃカッコ悪い。だから、遅くてもいいから、自分を見失ってもいいから、とにかく描いてよ、面白いのを!」と鼓舞する。島本は「マンガ家人生で今が一番つらい!」と嘆きながらも「大丈夫、ちゃんと言わなきゃいけないけど、(新連載は)面白いよ!」と主張。それを受けて藤田も「かなり面白いよ、俺のほうのマンガは」と自信満々で返した。
「アオイホノオ」、あれね、アンハッピーエンド

また島本は「藤田に勝つだけじゃ面白くない。藤田には勝つ! だけど世の中もひっくり返す!」と言葉に力を込める。「みんな、俺たちを応援してくれ! “俺たち”を応援してくれればいいから! やっと週刊で、藤田にパンチが当たるか当たらないかの戦いが見られる」とアピール。藤田も「一応言っておくけど、『アオイホノオ』って島本和彦の自伝的マンガでしょ。あれね、アンハッピーエンド。つまり、炎尾燃がいて(藤田をモデルとした)ジュビロと出会うわけだよね。ジュビロが新連載を起こす、そこに炎尾燃が新連載を起こすために、後からやって来るっていうことになってるじゃない。そうしたらね、アンハッピーエンド。なぜなら、ジュビロの連載が勝つから」と吹っかけ、会場を盛り上げる。
それを受けて島本も「うだうだやっていたけど、週刊のリングに上がったら、意外と藤田にパンチ当たるじゃん!ってわかる。もうね、当たってフラフラになってるのが見える。ここまですごいパンチだと思わなかったって後悔するよ!」と宣言。藤田は「そのジャッジはきっとみんな(読者)にやってもらうことになるので」と冷静に返答した。ちなみに最後、石田氏に「島本さん、今は何話まで描いてるんですか?」と聞かれると、島本は「今ね、1回目の途中まで描いてます」と明かし、藤田からは「ええー!? 始まんないじゃん、そんなの!」とまた突っ込まれていた。なおトークショーの模様は、島本のYouTubeとニコニコチャンネルの「島本和彦のZEKKYO大学」内でも配信されている。
提供元:コミックナタリー