首都圏マカティ市ヒルプヤット通りの中国領事館前で22日、南シナ海における中国の拡張主義的な動きに反対するデモが行われた。今回のデモは、社会民主主義政党アクバヤンの党首で、南シナ海での比の権益を主張する「アティン・イト連合」の共同発起人であるラファエラ・ダビド氏が呼びかけた。同党によると、中国領事館前に集結したデモ隊は300人以上。その他にも200台のオートバイ隊が領事館の周りを周回した。中国領事館前のあるワールドセンタービル前には約20人の警察官が警備に当たった。
アクバヤンは、マルコス政権に入って南シナ海問題の緊張が激化する中、南シナ海での漁民への民間補給作戦など「体を張った」行動を続けて民意を獲得し、先の中間選挙では政党リストのトップに躍進。フィリピンで高まる反中感情の受け皿として最も成功したといえる政治勢力だ。
午前10時過ぎ。ヒルプヤット通りに現れたデモ隊は、先頭から末尾が見えない人数で通りを埋め尽くした。号令にあわせて「パナタグ礁(スカボロー礁)は私たちのもの」「環境を破壊しているのは中国」「パナタグから出ていけ」などとシュプレヒコールが上がる。その一方で、スタッフが自動車通行用の車線を確保し、通行車を誘導。現場の警察官によるとデモは事前に許可済みといい、法令順守がしっかりしている印象だ。
ダビド党首は英語・フィリピン語で抗議の声明を読み上げ、中国に対し、「スカボロー礁(周辺海域)を含むあらゆるフィリピンの排他的経済水域(EEZ)に対する、不法で攻撃的な行動をただちにやめよ」と要求。「フィリピン海域法、中国の加盟する国際海洋法条約(UNCLOS)に照らしても、中国が西フィリピン海(南シナ海でフィリピンが権益を主張する海域)で巡視を行う法的根拠はない」「中国は海洋資源に損害を与え続けているため、比人の生活だけでなく、自国民の生活も危険にさらしている」など声を上げた。
▽保護区は「占領の手口」
ダビド党首は記者団の囲み取材で、今回のデモの目的について、「中国はパナタグ礁を自然保護区と宣言して、比漁民に無線で警告し、漁民を追い払おうとしている。それに対する反対だ」と説明。「自然を破壊しているのは中国の方であり、これまでサンゴ礁を破壊し、オオシャコガイやウミガメを密猟してきた」とし「自然保護というのはうそであり、西フィリピン海をさらに占領するための手口。自然保護区の実態は、西フィリピン海の占領だ」と非難した。
現政権で始まった、日米豪などの海軍種と南シナ海上で共同訓練・共同哨戒を行う「海上共同活動」についてどのような立場か、との質問には、「中国に対する最も強力な対抗策は、同志国との団結。これらの国々はルールに基づく国際秩序を奉じており、国際法を破る中国とは異なる」と述べ、同志国との安全保障強化に肯定的な立場を明らかにした。
▽リベラル派による反中政治
「2028年の大統領選挙ではどのようなリーダーが望ましいか」。この質問にダビド代表は「西フィリピン海の権利を奉じ、そのために戦うことが非常に大事だ」と指摘。具体名を避けながら、「一部の有力政治家はただ(中国と)協力すればいいと言っている。そのような『メイド・イン・チャイナ』のリーダーを選んではいけない。フィリピンを守ると強がっていながら、中国を前にすると臆病になるタイプだ」とした。
7月に発足した「西フィリピン海議連」については、「同議連はわれわれの権利を主張する法律を推進している。西フィリピン海を義務教育で教える法律や、ダバオ市など中国との姉妹都市関係を調査する決議に取り組んでいる」と説明。「中国の姉妹都市は『親北京的』になるかもしれない。調査が必要だ」と強調した。ダバオ市は、サラ現副大統領の市長時代の2018年に中国晋江市と姉妹都市協定を結んでいる。
西フィリピン海議連にはアクバヤン所属のリサ・ホンティベロス上院議員も加入。中国批判の急先鋒となっている同議員は、民間調査会社パブリクスの9月調査で上院議員支持率トップに踊り出た。中間選挙で復活の兆しを見せたリベラル派からの次期正副大統領選派有力候補として名が挙がり始めている。(竹下友章)