岩屋毅外相は27日、参議院外交防衛委員会で、時間との戦いとなっている無国籍のフィリピン残留日本人二世救済の問題について、「関係者の方の切なる声を踏まえ、1日も早く一時帰国が実現するよう、政府として引き続き真剣に検討を進めていく」と明言した。同相は「一時帰国は、親族探しなどを通じて国籍取得に必要な情報を得るためにも重要な機会だ」との認識を示し、石破茂首相が4月に訪比し残留二世当事者と面会した際に「一日も早い国籍取得や一時帰国が実現するよう、政府として取り組んでいきたい」旨伝えたことを確認した。残留二世問題に取り組む立憲民主党の塩村あやか議員の「終戦80周年である8月15日までに一時帰国を実現してほしい」という質疑に対し答弁した。
日本人父・比人母との間に生まれ、戦後無国籍状態になった残留日本人二世の一時帰国事業はこれまでも民間で取り組まれてきたが、国費による一時帰国事業が実現すれば、初めての取り組みとなる。
政府による残留二世の一時帰国事業の可能性については、昨年6月に上川陽子前外相が定例会見で言及し、同年12月に岩屋外相が参院外交防衛委で塩村議員の質問に対して同様の方針を確認。今年3月には石破首相が参院予算委で同議員の質問に「戦後80年は一つの区切り」とし、国費負担による渡航・親族探しの支援は「十分理由のあることだ」と踏み込んだ。
4月末にフィリピンを訪問した石破首相は29日に、寺岡カルロス元バギオ名誉総領事と、無国籍状態にある松田サクエさん・タケイ・ホセさんの計3人の二世に面会。「血と心でつながった祖国への帰属を、国として認めてほしい。日本人として死にたいという願いをかなえてほしい」という寺岡氏らの訴えに耳を傾け、政府としての取り組みを約束。その日に自身のSNSには「差別や迫害に耐えながらも、日本人としてのアイデンティティをもち続けて来られた皆様に最大級の敬意を表し、早期の国籍取得に向けて取り組む」との意気込みを投稿した。さらに翌30日に行われたマルコス大統領との共同記者発表でも「フィリピンに残された日系人二世の方々と面会をして、日本・フィリピンが歩んできた道のりに思いをはせた」と言及するなど、近年の首相の中では特に積極的な姿勢を示しており、初の公費一時帰国事業の早期の実現に期待が高まっている。
▽「アンデンティティーの問題」
塩村議員は「重要なことはアイデンティティーの問題だということ。自分は何人であるのか分からないまま、そして国に認められないまま亡くなっていくというのは、とても辛いことだ。そして、日本の戦後処理の問題も問われている」と指摘した上で、25日にパラワン州リナパカン島に住む残留二世の盛根エスペランサ(87)さん、リディア(85)姉妹=昨年9月に国籍回復=の元に日本の親族が訪問し、涙の面会を果たしたニュースに触れ、「80年経った今もできることはある」と強調。岩屋外相の認識を尋ねた。
岩屋外相は「私もこの報道を見た。日本の親族がフィリピンを尋ねて残留日系人の方と対面する様子には胸を打たれた。この問題への理解を一層深めた」と強い関心を示し、「残留二世の方々の国籍の取得が実現していないということは非常に残念で悲しいことだ。政府としては残留日系人の方々の高齢化が進む中で、希望する方々の1日も早い国籍取得や一時帰国に向けた支援を進めるということが重要だ」と改めて強調した。
また塩村議員は「当初約4000人当事者がいたが、日本国籍を希望しながらいまも国籍無く生きている方は49人まで減ってしまったという現実がある。現地に何度も足を運んでいるが、例えば体調が悪くなったり、認知症になられてしまうという状況はこの3年で急激に進んでしまった」と現状を報告。「終戦の日までに、まだ存命の二世を日本に一時帰国していただき、親族探しを呼びかけるというような事業を行っていただきたい」と訴えた。(竹下友章)