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12月30日のまにら新聞から

開校1年のファッションスクールはいま NPO法人DEAR MEの「coxco Lab」

[ 4415字|2023.12.30|社会 (society) ]

年末検証:NPO法人DEAR MEが運営する「coxco Lab(ココラボ)」開校から約1年。理事の小村さんに聞いた

(上左)ココラボの縫製クラスの様子。パーツごとに分担し協力して制作することもある。(上右)ココラボの縫製クラスの様子。(下)ココラボの生徒たちと小村さん(左)、西側さん(左から2人目)=DEAR ME理事の小村さん提供

 今年2月初旬、日本のNPO法人DEAR MEが教育や雇用機会の創出を目的に、フィリピンの貧困地区で暮らす若者がファッションのデザインや縫製などの技術を習得するための無償の職業訓練校、「coxco Lab(ココラボ)」を開校した。現在、首都圏ケソン市パヤタスとバゴンシーラン、マニラ市エルミタからの16~24歳の8人が学んでいる。

 この1年で企業とのコラボや協賛の獲得に伴って活動の幅も広がり、日系企業のイベントで生徒の制作物の物販出展や日系工場から制作依頼があるほか、2024年3月に開催予定のマニラ日本人会の盆踊りではっぴの注文も受けた。また、DEAR ME代表の西側愛弓さんが立ち上げたファッションブランド「coxco」でも、ココラボ生徒のデザインを取り入れた商品や生徒の制作物を日本でのポップアップストアなどで販売し、売り上げの一部を還元している。

 首都圏ケソン市ノバリチェスに構える校舎もいちから皆で作り上げた。「生まれた場所にかかわらず誰もが夢に向かって努力できる環境を創る」を掲げて運営するDEAR MEフィリピン現地理事の小村萌さんに、1年目の振り返りや奮闘、今後の展望について話を聞いた。(聞き手は深田莉映)

 △授業内容や学校での様子

 毎週日曜日に対面で、将来日系工場や日本で働く選択肢を広げるために日本語のレッスンを行い、昼休みを挟んで3~4時間の縫製レッスンを行っている。裁縫を習う日本の家庭科のような授業は学校で受けたことがなく、1人をのぞき全員がほぼ初心者だが、特にミシンを扱う時の集中力はすごい。皆が大好きなランチも、食べ終わったらすぐに作業に戻ることが増えてきた。

 生徒は、子どもがいたり大学に通っていたりとバックグラウンドも家庭の事情も様々。特に学生は大学と予定が合わず欠席することもあるので、土曜日に補講を入れて遅れに対応。得意不得意や上達具合に差はあれど、生徒同士で教え合う姿も見られ、1年経って皆の結束が強まったことを感じる。訓練校としてだけでなく、第二の家族のような居場所になれたことがうれしい。

 また、先生も熱血でありながらオンオフの切り替えを大切に頑張ってくれている。うち1人は日系の縫製工場で働いた経験があり、「時間を守る」「使ったら片付ける」といったマナー面も生徒に教えてくれている。

 △印象的だった出来事

 日系のイビデンフィリピン株式会社に依頼を受けてクリスマスパーティで物販ブース出展をした際、「ココラボで学んだことや習得した縫製技術をもって、日本で働くなど将来の選択肢を広げられるということを示し、次の世代のロールモデルになりたい。この売り上げが子どもたちの夢にもつながる」と生徒自身の口から思いを語っていて、生まれ育ったコミュニティーへの貢献がココラボで学ぶモチベーションになっていることに感動した。技術だけでなく心の成長も感じられた瞬間だった。

 物資を届けるなど一方通行の支援だけではなく、支援なしでも生徒ら自らが安定して生きていけるようにすることが目標だからこそ、コミュニティーのためにという生徒のモチベーションは大きな意味を持つと思う。

 今開講しているのは1年半のプログラムなのでまだ道半ばだが、来年1期生が修了して個々で動き出すとき。それまでコミュニティーにはなかった選択肢が確立されるのを見届けることができれば、小さな1歩ではあるが活動の成果として貧困問題にアプローチできたと思えるかもしれない。

 △企業関連での進展

 今年は日系企業ジャックスファイナンス・フィリピンとビジネスマナーのワークショップを共催したほか、石油会社シェル・フィリピンによる社会系団体やスタートアップの支援プログラムに選ばれた。 初めは事業内容に対し「いいことやっているね」という反応で終わり、協賛企業としては相手にしてもらえないことも多かったが、ココラボが開校して段々と目に見える形ができてからは、可能性を見出して手を挙げてくれる企業さんが出てきたりと地道な努力が実を結び手応えを感じている。また、日系工場や日本人会から注文をいただくなど開校前はなかった新しいつながりも増えて感謝している。

 △大変だったこと 

 学校を運営することが初めてで、生徒にどうやってモチベーションを保ってもらうかも手探り。また、経済的に厳しく家計のために働く必要があるなど、生徒本人の意思に反して学び続けることの難しさという現実的な問題にも直面した。だからこそ、縫製技術を習得しお金が還元される仕組みを回せるようにしたい。

 企業コネクションを作るのも大変だった。フィリピンあるあるで、会社の公式サイトに掲載されている電話番号は繋がらずメールで連絡がつかないことも多く苦労したが、諦めず様々な方面にアプローチをかけ続けた。

 △ディビソリアで奮闘

 授業で使う生地はたいていリサール州タイタイに調達しに行くが、縫製グッズや企業イベントで必要な道具の調達で頻繁にマニラ市の市場ディビソリアに繰り出している。友人には「ついにディビソリアに住み始めたの?」と言われるほど。

 安くて混沌としたカオス感が好きで、知る人ぞ知る細い道の裏の店など毎回新たな発見があって面白い。同時に、ケソンの子どもたちとはまた違うバックグラウンドのストリートチルドレンの姿に、マカティ市やタギッグ市のボニファシオ・グローバルシティ(BGC)にいると忘れそうになる気持ちを思い出させてくれる。パートナー団体「チャイルドホープ」がディビソリアのストリートチルドレンも支援していることもあり、将来的にはアプローチできればと考えている。

 △スタディーツアで日本の学生も受け入れ

 今年は高校や大学が夏休みの8~9月を中心に、活動エリアの貧困地区を回り子どもたちと交流するといったスタディツアーを7回行った。

 「ランウェイの上で夢を描く」をテーマに、フィリピンの貧困地区で暮らす子どもたちと作り上げるファッションショーの企画・運営を主に担当しているDEAR ME所属の学生ボランティアは、もともと国際協力や貧困問題に興味があり「フィリピンで何かしたい」と思っている人が多い。

 一方、高校生や大学生はあくまで学校のプログラムの1つだから参加しているという人も多く、はじめは意識のばらつきが目立った。それでも、底抜けの明るさを持つフィリピンの子どもたちと交流していくうちに打ち解け、シャイだった学生が積極的にコミュニケーションを取る場面がたくさんあった。

 また、ストリートチルドレンをはじめ日本では見ない「リアルな貧困」を目の当たりにし、「解決のために自分たちには何ができるのか」という質問がきたり。学生時代にこの現状を自分の目で見て知れたことが大きな経験だと思うし、その気持ちや気づきがあるだけでも運営側としては嬉しい。

 △今後の展望

 今年は貧困地区の若者を対象としたが、来年は母親たちを対象とした、業務用縫製に特化したコースを開講予定。フィリピンのユニフォーム文化やアニバーサリー文化のアイテムなどを制作し、正当な賃金で働けるようになれば。

 また、性教育を実施する団体にカリキュラムを聞いたりしながら、一緒にプログラムを作っていけるパートナー団体を探している。

 △10回目のファッションショーへ

 DEAR MEのファッションショーは24年2月に予定している次回で10回目を迎える。これまでの活動は主にショーだけだったが、今年はココラボが開校したことで、思い描いた夢の先にココラボや応援してくれる人がいて「夢を夢で終わらせずに、それに向かって歩んでいる姿」を見せられたら。

 △「家族のような存在」

 生徒の一人、シーナさん(19歳・パヤタス)の声を紹介する。

 洋服がどのように作られるのかを知りたくて応募しました。ココラボは単なるファッションスクールではなく、私にとっては思い出のつまった家族のような存在です。自分の作品の仕上がりやデザインに納得いかず悔しい思いをすることもありますが、他の生徒や先生が「大丈夫、素敵な作品だよ」「こんな他の方法もあるよ」と励ましや助言をくれて、「私ならできる」と背中を押してくれます。ココラボで学ぶ中で、自分自身と自分の作品を、前よりもっと信頼できるようになりました。

 皆が助け合って課題をやり遂げ、一緒に楽しんで取り組んでいるので、正直大変だと思ったことはありません。先生との絆や皆で食べる手作りランチ、楽しい思い出がたくさんあります。どんな時もサポートしてくれて私たちにとって何がベストか考え、努力し尽くしてくれる小村さんにも感謝しています。

 来年はより良い作品を制作し、より多く販売できるように頑張ります。修了後は学業に専念してまずは大学を卒業する予定です。その上で予定が合えばココラボのもとで働けたらうれしいし、いま学んでいることを続けたいと思っています。

「助け合う関係性築けた」 開校1年、ココラボ生徒の声

ジャナさん(24歳・パヤタス)

 所属する国境なき子どもたち(DEAR MEのパートナー団体)の職員から、ココラボの生徒募集の話を聞き、手芸や裁縫が好きなので自分の能力を高めるためにも応募を決めました。

 授業が始まり、自分自身がよりクリエイティブになりました。時にチームワークが発揮できない時は大変ですが、皆で家族のような関係を築くことができ、縫製技術の習得だけでなく、お互いに助け合う関係性が築けたのが一番良かったことです。

 修了後はこの分野の知識や技術をもっと深めたいです。経験のためにも日本で仕事をしてみたいと思っています。

サイリスさん(18歳・バゴンシーラン)

 ファッションが大好きだということを知っていた、所属する国境なき子どもたちの職員に声を掛けられ、調べるうちにココラボが若者が夢を実現する手助けをしたいと本気で考えてくれていることが分かり応募を決めました。ココラボは、私たちが情熱を持ち続けられるよう、常にモチベーションとなってくれる存在です。

 縫製やデザイン、ビーズを使ったりと様々な技術の習得は大変ですが、同時に心から楽しいと思えるのは、家族のようなココラボの皆がいつも刺激をくれて助け合いながら一緒に頑張れるから。

 クラスが始まり、ココラボに参加して良かったと思うのは、恐れずに自分らしくいられるようになったこと、大好きなことを心から楽しめるようになったこと。修了後もファッションの仕事を続けたいです。来年はもっと多くのことを学び、もっと自分に自信を持てるように頑張ります。

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