「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
36度-25度
両替レート
1万円=P3,670
$100=P5,750

9月22日のまにら新聞から

「比の栄養2極化に対応」 味の素フィリピン65周年

[ 1575字|2023.9.22|社会 (society) ]

比味の素が初のメディア向けイベントで比栄養問題への取り組みを紹介

発表を行う味の素フィリピンの尾崎弘一社長=20日、首都圏マニラ市で竹下友章撮影

 味の素フィリピンは20日、比進出65周年の節目に合わせ同社の取り組みと2030年に向けたビジョンを紹介するメディア向けイベントを初めて開催した。会場の首都圏マニラ市のホテルには、メディア関係者ら120人が参加。尾崎弘一社長は、1909年にさかのぼる味の素販売史と1958年にさかのぼる比事業を紹介した上で、「10億人の健康寿命の延伸」「環境負荷50%削減」という同グループの2030年までの目標を説明。児童の発達不良が多い一方で肥満率も高い比の栄養状況の「2極化」を指摘し、比の栄養課題に取り組む決意を表明した。

 比国家栄養評議会(NNC)は今年、比の5歳以下の児童の26・7%が発育不全である一方、20歳以上の成人の約40%が肥満を含む過体重だと報告。また、世界保健機関(WHO)は、比のナトリウム(塩分)平均摂取量が4113ミリグラムで、WHOの上限(2000ミリグムラム)の2倍以上との調査結果を発表している。比の死因上位には心筋梗塞や脳梗塞など塩分過多・高血圧を原因とする病気が並んでいる。

 こうした問題に取り組むため味の素フィリピンは2018年から政府機関と連携。比政府がWHOなどと共同して開発した健康食ガイドの普及を支援する事業を行っている。21年からはフィリピン大、リサール州カインタ町と連携し児童の栄養改善のための研究を開始。昨年は同町で効果の実感を通じて児童の親の行動変容を促すため、研究の一環として対象世帯に対し120日間のランチ配布事業も実施した。

 「比の家庭の80%がなんらかの味の素製品を使用している」(尾崎社長)ところまで浸透している味の素。1958年に比市場に進出した同社に成功をもたらしたのは、サリサリストア(零細雑貨店)向けの1袋3ミリグラム、販売価格5センタボの小口販売商品だった。「今でも売上の40~50%はサリサリストアや公設市場由来」(同)だという。

 ただ一方で、世界の低所得市場(BOP)に浸透することに成功した多国籍加工食品企業に対しては、「ジャンクフードや清涼飲料水など食品添加物・塩分・糖分が多く依存性の高い食品を浸透させることで、世界の貧困層から健康を収奪しながら利潤を上げている」との批判もある。

 それに対し尾崎社長は「最近は即席麺や清涼飲料水のメーカーから、減塩・減糖への取り組みへの需要が増えている。そうしたメーカーに味の素は、天然の素材から作った減塩・減糖を可能にする『TENCHO』という原料ブランドをB2B向けに販売している」と取り組みを説明。塩分含有量の少ないB2C向け調味料の浸透だけでなく、B2B製品の供給も通じて、「味を妥協せずに食品を健康的にする」取り組みが既にビジネス化されている点を強調した。

 比の市場としてのポテンシャルについては「比は東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国の中でもとりわけ平均年齢が低く、人口増加も続く。食品メーカーにとっては胃袋の数が一番大事であり、インドネシアと並ぶポテンシャルカントリーだ」と評価。

 上位中所得国入りを目前にするなど所得の上昇が続く比市場へのアプローチとしては、「冷凍食品やサプリメントなど、中高所得者も対象とした調味料以外の商品がどんどん伸びると予想している」とし、また、ベジタリアン・ビーガン向けの植物由来肉を製造する大手メーカーとも既に取引があることを説明した。

 今後の比への投資拡大計画については「現在、比国内の2工場で生産し、比市場向けの製品はほとんど現地生産している。コスト的にも『地産地消』が原則だ」とし「比での業績は堅調に推移しているため、いずれ需要が2工場の生産能力を超える日が来るのは目に見えおり、まさに現在今後の生産設備の拡大を検討しているところだ」と語った。(竹下友章)

社会 (society)