「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

本日休刊日

4月13日のまにら新聞から

「比日防衛関係は地域安定に貢献」 ロレンサナ元国防相インタビュー

[ 2427字|2023.4.13|政治 (politics) ]

旭日章受章が内定しているロレンサナ前国防相がまにら新聞の単独インタビューに応じた

ロレンサナ前国防相=12日、首都圏タギッグ市基地転換公社で竹下友章撮影

 先月、上院で外国からの叙勲への承認を受け、旭日章の受章が内定しているデルフィン・ロレンサナ前国防相=現基地転換公社総裁=が12日、まにら新聞の単独インタビューに応じた。初の防衛装備品海外移転、初の比日外務・防衛閣僚間会合(2プラス2)開催をはじめ、比日防衛協力関係の深化に数々のマイルストーンを打ち立てた同氏に、国防相時代の取り組みなどについて聞いた。(聞き手は竹下友章)

 ―旭日章受章内定をどう思う。

 光栄なこと。叙勲の基準は知らないが、旭日重光章を受賞した前任のガズミン元国防相と同じく、6年の任期を務めきった。その中で、自衛隊との共同訓練や交流を促進し、比日の防衛関係強化に努めた。

 日本からの防衛装備品移転に携わったことも大きいと思っている。日本供与の航空機TC―90は比海軍による西フィリピン海(南シナ海)の哨戒に役立っている。UH―1H多用途ヘリコプターの部品の無償供与も非常に助かった。

 日本の防衛大臣が代わるたびに会談を行い、北朝鮮情勢から西フィリピン海問題まで意見交換した。日本側は東南アジア地域の安定に関心を持ち続けていた。

 ―TC―90は自衛隊装備品の国外移転第一号だった。

 それ以前に、沿岸警備隊の巡視船の供与を受けていたが、軍事用でないから可能だった。TC―90移転は日本側の法的制約のため、当初は無償供与を受けられず貸与だった。しかし賃貸料は比にとって極めて低廉(ていれん)で助かった。その後、日本の法改正に伴い無償提供に切り替わった。

 ―その後、日本にとって初の国産完成装備品移転となる警戒管制レーダー輸出が決定する。

 防衛装備品の貸与・移転は前任のガズミン元国防相から引き継いだ議論。何の問題もなく話をまとめられた。

 レーダーについては、他国からの調達も検討していたが、三菱電機を選んだ。その理由の一つはアフターサービス。イスラエルから購入したら、輸送や専門家の訪比に時間がかかる。日本からだと4時間。交換部品調達も迅速だ。

 二つ目は性能。他国のレーダーとスペックを比較してもわれわれの要求にぴったり合致していた。日本のレーダー基地に視察に行かせてもらったときは、とても感銘を受けた。

 ―対日関係で国防相として最大の貢献は何か。

 6年かけ、国防省と防衛省間の関係を深めたことだ。地域の平和をどう達成するかについて日本の防衛省との率直かつ誠実な議論を重ねた。これは装備品の移転とは別のことだ。

 ―日本政府が今月発表した安全保障能力強化支援(OSA)の最初の支援先は比になるとされている。

 いい知らせだ。日本から調達したレーダー4基を加えても、まだ比全土をカバーできない。警戒レーダーはラグナ州、ミンドロ島、パラワン島、サンボアンガ半島に配置されるが、ミンダナオ南方、スルー海方面をカバーするためにさらに2~3基必要だ。

 ―日本政府は殺傷能力のある装備品移転に向け、防衛装備品移転三原則の見直しに動いている。

 私が国防相の時代にはなかった議論だ。どのような装備品が移転可能なのかは分からない。攻撃用か防衛用かで異なってくる。射程200キロメートルあるような、「スタンドオフ兵器」と呼ばれる兵器を西フィリピン海に向かって配備するという話なら、比国防省が検討するとは思わない。

 しかし国内テロリストとの戦いに有効なものなら検討するだろう。ただし、前政権期にテロリストの活動を大幅に沈静化できた。ドゥテルテ前大統領が就任した2016年、アブサヤフ・グループの人質は21人いたが、いまはゼロだ。同グループの残党は残り少ない。80年代に2万5000人いた新人民軍は5千人まで減少した。

 個人的に国内擾乱(じょうらん)鎮圧用の武器なら歓迎するが、その必要性はかつてほど高くはないだろう。

 ―将来の比日防衛関係をどうみる。

 とても健全な関係となると思う。私は今、こうしたことを言える立場にないが、日本はその純粋に平和主義的な軍事力を、周辺諸国の防衛にも貢献できるものに変容させている。地域の平和、特に西フィリピン海問題について共に状況を注視し、継続して対話を重ねるべきだ。

 ―南シナ海で比米合同哨戒が「再開」されることについては。

 再開と報じられているが、実はこれまで南シナ海で比米海軍が合同哨戒したことはない。行ったのは戦術運動、通信訓練(PASSEX)だ。しかもこれは比の領海内で実施した。

 ―初の比日外務・防衛閣僚間会合(2プラス2)を行った。

 既に訪問部隊地位協定(VFA)を結んでいる豪州より先に、日本と2プラス2を開催できたのは、日本とフィリピンの地理的近接性が関係しているだろう。すぐ近くに南シナ海や台湾海峡がある。部隊相互訪問の円滑化を含めた安全保障面での協力深化は、戦争への備えではない。地域の平和に貢献するものだ。

 ―比日米3国間防衛協力を強化すべきか。

 比日両国は、米国と安全保障条約を持っているという共通項がある。地域の平和と安定に関する意見を3カ国で交換することはいいことだ。ただ、3カ国防衛協力の強化が、地域の安全保障環境や緊張にどう影響を与えるかについてはコメントを控えたい。

 ―比日訪問部隊協定や円滑化協定が結ばれたら、比の国益のためになるか。

 もちろんだ。両部隊がシステムを共有し相互運用性を高めることができる。両国とも災害大国。地震・台風に頻繁に見舞われる両国の災害対応に関し、連携能力を向上させるだろう。

 デルフィン・ロレンサナ 1948年生。73年国軍士官学校卒。また、オーストラリア国立大卒業、アテネオ大で経営学修士(MBA)を取得。定年まで比陸軍に在籍し、最終階級は少将。駐米武官も経験。16年から22年まで第27代国防相を務める。

政治 (politics)