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3月10日のまにら新聞から

「多国間で対中共同戦線作りを」 中国の海洋進出に専門家ら

[ 1393字|2023.3.10|政治 (politics) ]

専門家らが中国の海洋進出に対抗するための共同戦線作りの必要性訴え

ジェイ・タリエラPCG長官顧問=8日

 比の戦略シンクタンク「ストラトベース」とドイツのシンクタンク、コンラド・アデナウアー基金は8日、「インド太平洋地域におけるグレーゾーン戦術への対策」をテーマとしたシンポジウムを開催した。

 グレーゾーン戦術とは「国家間で対立する領土、海洋を含む権益について武力攻撃に当たらない範囲で実力組織などを用い、頻繁にプレゼンスを示すことなどにより、現状の変更をしようとする試み」。同戦術で南シナ海での実効支配を強める中国への対抗策について実務者・専門家が議論した。

 フィリピン大のジェイ・バトンバカル博士=海洋法専門=は、先月のレーザー照射事件や、比が実効支配するパグアサ島に中国海軍艦や海警局船、42隻の海上民兵船とみられる船舶が集結したことが数日前に報告されたことを踏まえ、「南シナ海における中国の活動はより敵対的で攻撃的になっている」と指摘。

 このような中国の動きについて、「合理的でかつ相手の行動に比例する形の対応を取ることをちゅうちょしてはいけない。挑発となることを恐れ、相手の威圧の前に尻込みすると、全てを諦めることにつながりかねない」と警告した。

 対策として「多国間の集団的抑止力を構築し、有事の際の計画を立て、政策、活動、対応などを調整し、一種の統一戦線を作る必要がある」と訴えた。

 ストラトベースのディンド・マンヒト代表も登壇。「インド太平洋諸国は、中国の行動を国際ルールに基づいたものに変更させるために、威圧ではなく、2国間・多国間の協力を強化しなくてはならない」とし、同盟国、同志国との合同哨戒を実施するよう提言した。

 ストラトベース所属のレナト・デカストロ博士は更に踏み込み、「中国のグレーゾーン作戦を抑え込むためには、比日米豪が安全保障協定、部隊派遣、防衛装備品移転、多国間軍事演習を通じ、相互支援の強い意志を示し、比の不安を払拭する必要がある」とし「中国艦船を探知、監視するための地域監視ネットワークの開発も必要だ」と提言。

 また、ドゥテルテ政権を振り返り「中国に融和的な方針だったにもかかわらず同国の海洋進出は止まらなかった。それで前政権は比米同盟の重要性を理解した」とした。

 ▽軍拡抑止にPCG活用を

 比沿岸警備隊(PCG)のジェイ・タリエラ長官顧問は「PCGが辛抱強く主張の対立する海域を巡視し、中国の活動を記録したことで、同国の国際法に反する行動が白日のもとにさらされ、公にウソの弁解をすることを余儀なくさせた。中国海警局によるPCG巡視船への軍用レーザー照射事件が好例だ」と述べ、中国の行動を可視化し国際社会に告発するための巡視活動の重要性を指摘。

 同長官顧問は、比の排他的経済水域(EEZ)に属する南シナ海南沙諸島のミスチーフ礁やルソン島西岸沖のスカボロー礁の実効支配を中国に奪われたことを念頭に「二度とグレーゾーンの罠(わな)にはまることは許されない」と強調。その対策として外洋で活動できる大型のオフショア巡視船や航空機、PCG基地の拡充を通じた監視能力の拡大を訴えた。

 一方で「中国に比を戦争扇動国と言わせてはいけない」と警告。「PCGの船艇は(非軍隊を表す)白色船。海軍の軍拡競争にはならない」とし「海軍の支援のもと、引き続きPCGが南シナ海パトロールの主要な選択肢であるべきだ」とした。(竹下友章)

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