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7月28日のまにら新聞から

「財政目標緩和も辞さず」 財務相が成長優先姿勢明示

[ 2117字|2023.7.28|経済 (economy) ]

SONA後経済会見で財務相「インフラ事業継続のためには財政目標緩和も辞さず」

ポストSONA経済閣僚会見に望む閣僚ら。左からバセリオ予算管理省首席エコノミスト、バリサカン国家経済開発長官、ジョクノ財務相、ダキラ中銀副総裁=25日、首都圏パサイ市でロビーナ・アシド撮影

 首都圏パサイ市比国際会議センターで25日、施政方針演説(SONA)後に経済関係閣僚・経済界代表らが一堂に会し比経済の現状と政策を議論する年に一度の「ポストSONA経済会見」が開かれた。政府歳入と財政規律を担うジョクノ財務相は、2022年に7・33%だった財政赤字対国内総生産(GDP)比を28年までに3%、22年に60・9%だった累積債務残高対GDP比を25年までに60%以下、28年までに約51%にするという現政権の中期財政計画目標を説明した上で、外的要因により経済が落ち込んだときは「目標にこだわらず赤字を拡大してでもインフラ投資を継続する」と明言。財政規律より成長を優先する立場を明確にした。

 同相は「ドゥテルテ政権以前の50年間、GDPに対するインフラ投資額の比率は2%ほどだった。これが他の東南アジア諸国に比べ比のインフラの水準が低い理由だ」と指摘。大規模インフラ投資を推し進めた前政権以上となるGDP比5~6%規模のインフラ支出を「毎年維持する」とした上で、「私は長く政府内で働いてきたので、外的要因の経済後退がある度にインフラ投資を中断する愚を知っている。事業を延期させると正味現在価値や内部収益率が悪化するなど、マイナスの結果しか生まない」と述べ、インフラ投資を継続する重要性を強調した。

 インフラ整備事業は大量の資本財輸入を必要とすることから経常収支赤字圧力ともなる。そのことについて同相は、「インフラ投資は経済成長をもたらし将来的に外貨獲得につながるため、それは『いい赤字』だ」と指摘。その上で、「現在、比には年300億ドルをもたらす(海外比人就労者による)送金、ほぼ同額を稼ぎ出すBPO産業がある。さらに今は観光業も急成長している」とし、比に安定的に外貨をもたらす労働・サービス輸出産業が育っていることを説明した。

 また、「通常、輸入額の3カ月分あれば十分と言われる外貨準備高は7~8カ月分の積み立てがある」とし、外貨建て債権の支払いや、為替急変時の為替介入の「持ち弾」となる外貨準備が十二分にあることを強調した。

 ▽ODA依存緩和へ

 政府歳入については、1~6月の歳入が1兆9000億ペソで前年同期比7・7%増加したと報告。そのうち、税収は7・5%、税外収入は9・1%増。歳入増の要因について同相は、コロナ禍からの経済の再開による経済成長加速のほか、内国歳入庁・関税庁による徴税手続きデジタル化の成果とした。

 現行のインフラ事業計画については「実施可能な計8兆3000億ペソ規模の194事業リストがある」とし、その財源別内訳について、55%が政府開発援助(ODA)、30%が官民連携(PPP)、10%が政府予算と報告した。

 また、今月設立が決定した政府系ファンド「マハルリカ・インベストメント・ファンド」(MIF)については、インフラ開発、PPPと並ぶ経済成長の駆動装置と位置づけ、その投資資金がグリーン・ブルー経済への投資、デジタル化、農村開発、医療などの分野に投下されると説明。その上で、「MIFは今後20年間、新プロジェクトの実施に役立つ政府予算への負担の少ない財源となる。ODA依存を減らすことが期待される」とし、インフラ開発財源について借款から投資へのシフトをもたらす効果を指摘した。

 また同相は新税導入方針として、受動所得・金融仲介事業者課税法、非居住デジタルサービスプロバイダー課税法、炭酸カクテルなどの低アルコール混合飲料課税法を2024年中に施行することを目指すとした。

 国・地方両方の官民連携に関し統一的な法的枠組みを作るPPP法については、「(下院ではすでに通過し)上院第2読会まで進んでいる」と報告した。一方、SMインベストメント・コーポレーションのテレシア・シー副会長は「PPPについては関連法規を単純化することが重要だ」と指摘。規則の明確性・シンプルさが民間投資誘致の鍵だと強調した。

 ▽利上げ再開も

 中銀のダキラ副総裁は「供給制約の緩和、世界的な原油価格下落、比中銀の金融政策により、ここ数カ月インフレ率は下がり続け、6月は5・4%になった」と振り返り、今後のインフレ率予想として、「今年第4四半期には(月間)インフレ率が中銀目標(2~4%)内まで下がり、通年インフレ率は5・4%前後、また24年通年は2・9%まで下がる見通しだ」との最新推計を示した。

 直近2会合連続で政策金利引き上げを見送った理由については、「金融引き締めが経済に影響を及ぼしはじめ、かつインフレ率が下落傾向にあることから利上げを中止した」と説明。その上で、「インフレや内需の見通しによっては再び金融措置を再開する用意はある」と述べ、2007年8月以来の高水準(6・25%)となっている政策金利をさらに引き上げる選択肢も持っていることを明言した。

 また、市中銀行の動向として、今年第1四半期の銀行収益が前年同期比35%増、今年5月末時点の預金総額は前年同月比8・2%増だったと報告。「市中銀行への国民の信用は高まり、業績は堅調」とした。(竹下友章)

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