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2月25日のまにら新聞から

「ポジショニングが鍵」 日本の観光業界復活へ

[ 1686字|2023.2.25|経済 (economy) ]

日本政府観光局マニラ事務所 渡部誠所長に聞く① 2030年までに訪日数6000万人目指す

日本政府観光局マニラ事務所の渡部誠所長=2日、首都圏マカティ市で沼田康平撮影

 世界がコロナ禍に見舞われ3年が経つ。ようやく世界の扉が開き始め、観光を楽しむひとびとの姿も見られるようになってきた。日本政府も国際観光インバウンドの目標として2030年までに訪日数6000万人、消費額15兆円を掲げている。日本の観光業界やその課題など日本政府観光局マニラ事務所の渡部誠所長へのインタビューを2回に分けて紹介する。(聞き手は沼田康平)

 ―コロナ禍の観光業界をどうみる。

 旅行業だけでも1500件を超える廃業が報告された。昨年10月に入国制限が大幅緩和され、これから比人訪日客を増やすことで観光業界復活へ貢献できればと考えている。

 ―なぜ高付加価値旅行者をターゲットに。

 インバウンド消費額は、「訪日客数×1人1日当たり消費額×滞在日数(×市場の伸び率)」の乗数の結果となる。比市場はどの要素にも伸びしろがある。インバウント全体としてはこのうち「1人1日当たり消費額」を上げていくための内数として高付加価値旅行を訴求する必要がある。観光庁では、高付加価値で持続可能な観光地域づくりという戦略があり、これは地方誘客による滞在日数や宿泊・交通費の伸び、地方経済の活性化も狙っていくことになっている。なお高付加価値旅行とは、現時点では、「1人1旅行当たり100万円以上を日本国内で消費する旅行」としているが、ヒアリングや一部データから、このような消費をされる方々が比市場にも少なからずいることがわかっている。

 ―富裕層、庶民層の求めるものの違い。

 国や地域(市場)、世代によっても異なり、端的には語れない。富裕層の傾向としては、「超豪華な旅行」から「体験・探求型」へのトレンドの変化が見られ、また庶民層も訪日リピーター率・回数が増えるにつれ、「食・買い物」中心から「体験・探求型」が増えていく傾向がある。

 ―観光業で成功している他国は。

 ヨーロッパではフランスやスペイン、アジアではタイや中国など。陸続きとなって往来のしやすい国はそのアドバンテージはある。

 ―日本の課題は。

 ターゲットとする市場によって異なる。日本側のJNTO賛助団体・会員企業の皆様とのやり取りで感じるのは地域や企業がどんなコンテンツを持ち(あるいは仕立て上げ)、どのような市場を狙っていくのか、という戦略が重要であるということ。日本国内だけでなく世界中の観光地・観光市場の中で、どのようなポジショニングを確立して勝負するのか、成功している観光地や施設はそれが出来ているのだと思う。

 ―インターネットで旅行を体験できる「メタバース観光」は敵か味方か。

 トレンドとしては、「旅行前に『試す』ことでエンゲージメントを高める可能性」や、「旅行者の体験をより充実させるために使用されるようになる可能性」があるといわれており、相乗効果が期待できると考えている。

 旅行中のリアルな消費に加え、今後メタバース内での外国人の消費があるかもしれないし、既にある越境EC(国境を越えて電子的に取引を行うこと)での消費を更に伸ばす可能性もある。あるいは訪日旅行中、買い物に費やしていた時間をより体験型の消費に転換し、多角的な楽しみ方を増やすことに繋がる可能性もあるのではと考えている。

 インバウンド銘柄でもある日本の百貨店・デパートが足元で免税品の売り上げを伸ばしつつある一方、メタバースにも進出し、単にECだけでなく、楽しみながら買い物ができるということを始めており、新たな顧客層を掴もうとしている。私見になるが、今後「楽しみながら」消費するということが訪日外国人にも広がり、越境ECがより進化していく可能性があると考える。 (続く)

 わたなべ・まこと 1965年生まれ、兵庫県神戸市出身。関西学院大商学部卒。英リヴァプール大経営学修士MBA。NTT入社後、通信機器事業部、業務改善室など勤務。スリランカ、フィリピンにて海外赴任も経験。17年にJNTO入構し、海外プロモーション部東アジア・グループなどを経て、21年現マニラ事務所所長に就任。

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