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12月24日のまにら新聞から

物流近代化で農家所得向上を 来年からパイロット事業開始

[ 1588字|2022.12.24|経済 (economy) ]

JICAと農務省が「比農業バリューチェーン改善プロジェクト」議事録に署名

署名した議事録を見せるJICA比事務所の坂本威午所長(右)とドミンゴ・パガニバン農務次官=23日午前10時20分ごろ、首都圏ケソン市農務省で竹下友章撮影

 首都圏ケソン市の農務省本庁で23日、国際協力機構(JICA)フィリピン事務所の坂本威午所長と比農務省のドミンゴ・パガニバン次官がJICA技術協力事業「比園芸作物におけるフードバリューチェーン改善プロジェクト」の実施内容を定めた議事録への署名式を行った。2021年2月に始まった同事業は、計画段階(フェーズI)を終え、23年から約5カ年の実施段階(フェーズⅡ)に移行する。

 比の農業就業者は全就業者人口の約22・5%を占めるが、付加価値の合計である国内総生産(GDP)の割合で見ると約10%のみ。全国の貧困率が16・7%なのに対し、農村部は31・6%と倍近い。

 同プロジェクトは、栽培作物の需給ミスマッチを解消するとともに、既存の青物物流過程で発生する廃棄・腐敗、傷みなどの商品ロス、低品質化を減らし、出荷から消費に至るバリューチェーン(価値連鎖)を改善することを通じて、農家所得の上昇と野菜の国内供給力安定化を目指す。

 大統領自ら農務相を兼任し、技術導入を通じて食料自給率を高めるとともに農業の「成長産業」化を目指すマルコス政権にとっても「渡りに船」のプロジェクトと言えそうだ。

 署名式で坂本所長は「強い農業部門の基礎なくして強い経済はないというマルコス大統領の認識をJICAは共有している。JICAは数十年間の協力を通じ、農村灌漑(かんがい)事業や農家向け融資事業などを行ってきており、これらはなお重要。しかし、所得増加、雇用創出、格差是正には市場指向のアプローチも必要だ」と強調した。

 パガニバン次官は「このプロジェクトは食料安全保障と食料自給の達成のために食料バリューチェーン再構築を目指すというマルコス大統領の方針とも一致する」と述べ、野菜農家所得を増加させる「包摂的なビジネスモデル」の開発に期待を寄せた。

 同事業は来年からベンゲット、ケソン両州および首都圏で実施される。農家グループだけでなくスーパーマーケットなど流通事業者の参画を求め、市場情報を共有する官民プラットフォームを設置。品質、企画、包装、供給量などに関する市場側の需要を把握しながら、需要にマッチした生産、出荷時期の調整による価格乱高下抑制、運搬方法改善による高品質化、Eコマースを通じた農家の販売経路多様化などを目指す。日本からも多数の専門家が派遣される。

 ▽ウィン・ウィンの事業

 「農家所得の増加を目指す同プロジェクトは、現在問題となっている野菜価格高騰の緩和にも貢献するか」というまにら新聞の質問に対し、坂本所長は「現在、ベンゲットなどから首都圏に運ばれる野菜は物流過程でその多くが傷み、廃棄されている。この費用は価格に転嫁されているため、温度管理や運搬方法改善により物流ロスを大きく減らせれば、農家収入を高めるだけでなく、末端販売価格も同時に下げられる可能性はある」と説明。「農家の所得増加および野菜の安定供給・高品質化、価格の安定化」にもつながる生産者・消費者にとって「ウィン・ウィン」の事業だとした。

 今回の事業はコメなど穀物を含まないが、比の主食であるコメの生産へのJICAの支援について同所長は「灌漑事業などのコメ農業支援事業は長年行ってきており、そのかいもあって比のコメ栽培の生産性は、東南アジア諸国連合(ASEAN)平均より高い1ヘクタールあたり4トンとなっている」と説明。具体例として、年1回だった収穫がJICAの灌漑整備事業後に年3回に増えた北イロコス州ソロナ町の事例を挙げた。

 坂本所長はまた、マルコス新政権がJICAにどのような協力を求めているかについて、「現在政府間で調整中」としながら、来年2月とも言われるマルコス大統領訪日に合わせて新事業が発表される可能性について「そうなることを希望している」と述べた。

(竹下友章)

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