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年末検証

第2回 ・ 前回選挙でマニラ市長に当選したエストラダ元大統領の犯罪撲滅策で、警察改革進むも犯罪数は減らず

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しばしば窃盗事件の舞台になる首都圏マニラ市エルミタ地区=28日午前11時ごろ写す

 5月13日に投開票が行われたマニラ市長選で、エストラダ元大統領は、3期目を狙ったリム・マニラ市長(当時)に約4万票の差をつけ、新市長に当選した。新市長は就任宣誓式で「悪徳警官と犯罪の一掃」を政策の一つに掲げた。就任から約6カ月、マニラ市の犯罪発生件数はむしろ増加傾向にある。

 首都圏警察マニラ市本部のアーウィン・マルガレホ地域課長によると、エストラダ市長の就任以来、同市内の警官は勤務態度を厳しく評価されるようになった。制服の着崩しや勤務の怠慢は即座に減俸や処分の対象になる。オートバイによる巡回の際はヘルメット着用を義務付けられた。極度の肥満や慢性的な体調不良も減点の対象。また、犯罪の取り締まりにノルマが課され、犯罪発生件数の減少がみられない分署の署長は容赦なく異動処分になる。マルガレホ課長は「署長に就任してから3カ月ごとに査定がある。これまでもノルマという概念はあったが、ここまで厳しくみられることはなかった。それが、現市長になってからは、12月までに、すでに11カ所ある分署のうち6カ所の署長が異動になった」と明かした。縁故採用など、汚職の温床となる仕組みもほぼ一掃されたという。

 厳しくムチを振るう一方、アメも用意されている。市長は、これまで2年間停止されていた、自治体から警官に支払われる特別手当を復活させ、12月21日に市内の警官全員へ6千ペソを支給した。月千ペソ、6カ月分の計算という。第5分署のリザリノ・ピカヨ上級警部は特別手当の意義を「警官が汚職や犯罪に走る理由は、所得が低いことにある。福利厚生を改善することによって仕事へのモチベーションも上がり、犯罪の減少につながる」と説明した。

 警察改革は着々と進んでいるようにみえるが、治安の改善までには至っていないのが現状だ。首都圏警察マニラ市本部がまとめた犯罪件数統計によると、エストラダ市長就任以降の同市の犯罪発生件数(7月〜11月)は、前年同期と比べむしろ増加傾向にある。月ごとの総犯罪件数(届け出ベース)は、前年と比べ毎月増えており、特に10月は1464件(前年同月、1180件)、11月は1554件(同1291件)と、いずれも約20%の増加となっている。

 7月〜10月にかけては、警官を装いながら日本人旅行者を連れ去り、金品を脅し取る強盗事件が同市エルミタ、マラテ両地区で3件発生した。警察関係者によると、犯行グループには元警官や現職警官も関わっているとみられる。今月3日、犯行グループの1人とみられる元警官が、拳銃の不法所持で拘束された。拘束した第9分署の捜査員によると、証拠がないため、強盗事件に関しては立件できないという。

 マラテ地区に飲食店を2軒持つ日本人経営者は「例年と比べて、治安は今が一番悪い。日本人客は少なくなった。エストラダ市長になってからも、汚職対策は末端の警官にまで浸透していないように感じる」と嘆いた。

 新市長の犯罪撲滅策は実を結ぶだろうか。マルガレホ課長は「市長の政策を評価するには時期が早すぎる。ただ、市長はしっかりとリーダーシップを執っており、われわれはその支援の下で、厳しい警察改革を進めている」と話した。(加藤昌平)

(2013.12.29)

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