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3月29日のまにら新聞から

エドガル・ガクタン新司教インタビュー(下) 次世代の育成に挑む

[ 2322字|2022.3.29|社会 (society) ]

教会が抱える高齢化や信者減少、次世代への継承や国際化といった課題を語る

大船渡教会でのミサの後、フィリピン人妻の信者たちと記念撮影に納まるガクタン氏(右端)=2014年撮影、ガクタン氏提供

 今月19日に仙台教区の司教に正式に就任したエドガル・ガクタン氏(57)は日本で2度の大震災を経験している。大阪教区の金剛教会・三日市教会での助任司祭時代だった1995年1月17日に阪神淡路大震災が発生した時はたまたま大阪の青年たちとフィリピンでワールドユースデー(世界青年の日)に参加していた。「現地のテレビで神戸市長田区が燃えているのをみました」と衝撃を受けたガクタン氏は、帰国後、その長田区にあり震災で全焼した、たかとり教会でボランディア活動に従事している。

 その16年後の2011年3月に東日本大震災が発生した際には、淳心会日本管区(本部・兵庫県姫路市)の管区長として比人神父らを現地に派遣したほか、自身も仙台教区にあったカリタス大船渡ボランティアベース(拠点)のベース長や外国人支援センタ―長などとして被災者支援に直接かかわった。

 この時期に様々な信徒と出会い、車で信徒の家々を訪問することで仙台教区の地理も詳しく知る機会に恵まれたため、司教職を引き継ぐ際に不安はなかった。

 ただし、日本のカトリック教会は次世代の育成など多くの課題に直面しているとガクタン氏はまにら新聞へのインタビューで語った。

▽カトリック信者の減少

 1990年2月に神学生として初めて来日したガクタン氏は当時、整然とした日本社会の様子に驚いた。「どこに行っても清掃が行き届き、交通信号がすべて作動し、人々も信号をちゃんと守っている。どの人も働きに出るか学校に行くかしており、その職業や身分が服装を見ただけで分かるようになっている。時間も厳守する」と当時の日本人の印象を振り返る。

 しかし、日本のカトリック教会は信者数の減少傾向が続く。

 カトリック中央協議会が2021年8月に発表した「カトリック教会現勢」報告書によると、全国16教区の聖職者などを含む信者数合計は2020年末時点で43万5083人(日本の総人口に占める割合が0.342%)で、2010年時点の44万8440人(同0.353%)から10年間で1万3300人ほど減少している。

 カトリック教徒が一番多いのは、やはり人口の多い東京教区で9万8200人(同0.487%)だが、信者率が一番高いのは長崎教区で5万9161人(同4.380%)となっている。

 一方、ガクタン司教が率いる宮城や福島など東北4県を管轄する仙台教区は9822人(同0.147%)と高松教区(同0.116%)に次いで全国の16教区の中で下から2番目の低率にとどまる。ガクタン氏も「教会全体が高齢化と信者数の減少に直面している」と認める。

▽次世代への信仰の継承

 ガクタン司教によると、仙台教区では52の小教区があるが、現役聖職者は28人しかおらず、司祭が不在の小教区が多いという。

 司祭1人が2つの小教区を掛け持ちしたり、2人の司祭で4〜6カ所の小教区をカバーする態勢でしのいでいる。

 また、冬になると路面凍結などで司祭がミサを挙げるために小教区に行くだけでも「命懸けになることもある」という。「司祭を育てることも仙台教区の課題だ」とガクタン氏は指摘する。

 さらにガクタン氏は、「国際化と次世代に信仰を伝えることも大きな課題」と強調する。「東日本大震災で比人妻など被災地に外国人姉妹たちがいることに日本人信者は気づいた。それまでは現地でお客さんとして扱っていたかもしれないが、教会の一員として受け入れるようになった」と信者間の国際交流も徐々に進む。

 最近でも技能実習生として東北にやってきたベトナム人の信者が増えているという。しかし、「比人妻を含め外国人の信者たちが日本の生活に定着するにつれて、その子どもたちにカトリック教徒としての信仰を伝えることが困難になっています」とガクタン氏。

 外国人の親を持つ子どもたちは中学校や高校生になると部活や進学塾などで忙しくなりなかなか教会に通えないという。これら次世代に信仰を伝える活動が今後、極めて重要になるというのだ。

▽大統領選で盛り上がる比人コミュニティー

 11年前の大震災で被災した在日フィリピン人たちも仮設住宅から新築住宅に移り住むなどしてそれぞれ新生活を送っている。

 比人信者らとのやりとりはフェイスブックを通じて行うことが多いというガクタン氏は「比人信者たちは3〜4月になると子どもが高校を卒業したり、大学に入学したりという『新しい出発』のニュースをよく投稿します」とほほ笑む。

 また最近では今年5月の大統領選をめぐる投稿も増えているという。「日本の比人コミュニティーもフィリピン社会の縮図です。それぞれの候補者の熱心な支持者らがおり、有力候補のテーマカラーである緑色やピンク色の服などを着た様子を投稿し、熱心に応援していますよ」。在日比人たちは期日前投票に参加する人も多く、ガクタン司教も比大統領選では日本にいながらずっと投票してきたという。

 最後に「5月の大統領選の立候補者についてどう思うか」との質問を投げかけると、ガクタン司教は「自分も26年間フィリピンで生活してきました。マルコス元大統領が布告した戒厳令も経験しています」ときっぱりとした口調で答えた。

 そして言葉を選びながら、「歴史に対する理解を正しく持つことが大切です。事実と異なる内容が語られることも多く、それでは正義が保たれません。(有権者たちは)正しい歴史の理解に基づいて候補者を選んで欲しいものです」と日本国内だけでなく、海の向こう側にいる同胞たちにも訴えかけるように語った。

(澤田公伸、終わり)

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