まにら新聞ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
31度-24度
両替レート
1万円=P4,440
$100=P5,040

シリーズ・連載

役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第5回 ・ 好調なアセアン経済

[ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7 ・ 8 ・ 9 ・ 10 ・ 11 ・ 12 ・ 13 ・ 14 ・ 15 ・ 16 ]

 欧州の債務危機による景気後退により、アジアの2大強国である中国、インドの経済減速が顕著になりつつあります。従来2桁の経済成長を続けてきた中国が1桁台に落ち込み、今年の第2四半期(4〜6月)はとうとう、7・6%まで低下しました。この影響で韓国、香港、シンガポールは低成長に陥り、台湾に至ってはマイナス成長となってしまいました。

 このような逆風下、フィリピンを含むアセアン諸国は、年初より好調な経済成長を持続しており、好況に沸くインドネシアだけでなく、昨年来の洪水被害からの脱却を目指すタイも、復興需要や好調な国内自動車販売に支えられ、4%台の回復軌道に乗せてきました。各国とも、輸出が大幅に落ち込む中、旺盛な個人消費と政府による公共投資や民間の設備投資が輸出の落ち込みをカバーして、経済成長を下支えしているようです。

 これら近隣諸国と比較して、フィリピンの経済成長の要因は少し異なるようで、先週発表された統計調整委員会(NSCB)の解析によると、サービス部門と製造部門と建設部門の貢献により、5・9%の成長が達成されたようです。

 ここで、簡単に国内総生産(GDP)の中味を説明しましょう。経済学の先生に叱られるのを承知で単純化すると、GDPは?個人部門(個人消費)?企業部門(民間設備投資)?政府部門(公共投資)?輸出と輸入の差││という四つの部門に分けられます。これにフィリピンの第2四半期の成長要因を当てはめると、次のようになります。

 前年同期に比べて、民間部門のサービス(BPO企業の売り上げなど)や製造業、建設業の売上が増加した、つまりコールセンター業、公共投資による道路工事などの建設業が好調で、製造業も昨年度の落ち込みをカバーして回復基調にあると言えます。

 よって、政府の公共投資や、フィリピン人海外就労者(OFW)からの送金に支えられた個人消費やコールセンター業にけん引された経済成長ということになります。OFWの送金が急に減少することはないにしても、例えば、米国で海外への業務委託を禁止する法案が可決されれば、BPO関連産業は多大な損害を被る恐れがあります。

 これに対して、タイやインドネシアの経済成長はどのように支えられているのでしょうか? またも、経済学の先生の叱責(しっせき)を覚悟で単純化すると次のようになります。1人当たり個人所得が3500ドルを超え、人口構成上も、人口ボーナスを享受できる時期に入り、中間層の増大が顕著になる。この中間層が二輪車から四輪車に乗り換え、家電製品の購入が一段落して住宅購入に向かい、経済が順調に内需主導の成長軌道に入っていきます。まさに、中進国入りを目指して、離陸を始める時期と言えるでしょう。 

 今年の自動車販売台数予測はインドネシアが80万台、タイが100万台です。フィリピンは楽観的に見ても、20万台に乗せるのが精一杯と言わざるを得ません。この違いは何処から来るのでしょうか?

 本来であれば、国内で就業すべき900万人強のOFWの消費が、マンション投資を除いては国外で消費されているため、この差が生じていると思われます。将来的に、このOFW達の就業機会を国内で創出しない限り、タイやインドネシアに追いつくのは困難と言わざるを得ません。

 アキノ大統領は外資規制緩和には消極的と言われていますが、国内投資家が寡占状態に胡坐(あぐら)をかいて、積極的な投資をしないのであれば、規制を緩和して外資を積極的に誘致し、市場原理による競争を促進して、国内投資を活性化させるのが正道と思われます。読者の皆様はどうお考えになりますか? 

 寡占状態のビール業界ではピルセン、ライト以外の新製品の投入は久しく聞いておりません。日本のように、3カ月毎に新製品を投入せよとは言いませんが、競争がないと、消費者は不利益を被るものです。

 従って、数字の上では同等の経済成長を達成していますが、その中味には大きな違いがあります。この差を縮めていく努力を継続していくことが必要だと、政府や議員の方々に認識していただけるよう、折に触れ外国人として啓発するのも我々の使命かと考えます。

(2012.9.3)

[ 1 ・ 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7 ・ 8 ・ 9 ・ 10 ・ 11 ・ 12 ・ 13 ・ 14 ・ 15 ・ 16 ]