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役に立つ経済学 大嶋正治BOIアドバイザー

第1回 ・ 高まる日本への期待。ADB総会と比経済

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 先週5月2日から5日まで、アジア開発銀行(ADB)の第45回年次総会がマニラのフィリピン国際会議場で開催されました。この機会に、ADBとフィリピン経済について考えてみましょう。

 まず、ADBはなぜマニラに本店を設置したのでしょうか?

 米国と並び最大の出資国であった日本は、その本店を日本に設置しようと、さまざまな政治工作をしました。しかし功を奏さず、1966年当時、日本に次ぐ経済規模を誇り、英語能力のある人材を豊富かつ安価に採用できるマニラに設置されることになりました。

 次は、ADBの現況です。現在、加盟国は67カ国に上り、その内48カ国がアジア・太平洋地域に属し、残りの19カ国は欧米諸国です。設立以来、1600億ドル以上の融資を実行し、アジア域内の貧困削減、インフラ整備、産業振興に貢献しています。

 また、初代渡辺総裁から8代目の黒田現総裁まで、常に大蔵・財務省出身者が総裁を勤め、日本人職員は幹部職員25人を含め138人が国際職員として勤務しており、2010年12月現在で、全体の13%を占めています。

 ここで、今度の年次総会を振り返ってみましょう。03年の第36回総会以来、マニラでの年次総会開催は9年ぶりでした。加盟国の財務閣僚、中銀総裁、銀行、証券会社などの関係者が総勢5千人以上参加し、10年にアキノ政権が誕生してから、最大の国際的行事でした。そこで、総会を成功させようと、多彩なイベントが企画されました。主なものを紹介しますと、PPP(官民連携プロジェクト)をはじめとする外資への投資機会をアピールする企画や、フィリピンの主要大手企業がその活動を広報する展示会などでした。

 さらに、総会を機会に、アキノ政権の主要経済政策の成果や汚職撲滅、投資環境の改善を前面に打ち出し、格付会社から投資適格水準であるBBBマイナス(現BB)の国債格付けを獲得しようと全力を上げました。

 年次総会の歴史を見ますと、節目の年に日本で開催されています。1966年の設立総会の後、87年第20回(大阪)、97年第30回(福岡)、2007年第40回(京都)と日本で開かれました。

 さて次は、今回の年次総会のホスト国、フィリピン経済の課題とADBの対応について触れたいと思います。フィリピンは過去46年間、ADBをはじめさまざまな国際援助機関から巨額の有償、無償援助を受けてきました。しかし、フィリピンの貧困率には、改善の兆しが見えず横ばいの状態が続いています。

 NIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)とアセアン3(マレーシア、タイ、インドネシア)は1990年代に経済成長と貧困削減に成功し、世界銀行からアジアの奇跡と賞賛されました。この成功は、円高対策で日本企業がこれら諸国へ工場を移転し、それを活用することによって達成されました。

 フィリピンの場合は、政治的な混乱に加え、部品産業が整備されていないため、家電や自動車の大規模工場の移転受け入れに失敗しました。そのため、未成熟な国内製造業と日本を中心とする部品輸出企業を抱えて、サービス産業化の道をひた走りし、今日に至っています。

 今回の総会を機に、ADBはフィリピン政府に対し、製造業の再活性化による雇用機会創出を目指す「包括的な成長に向けた正しい道」という政策提言をしました。その趣旨は、大卒中心の高学歴者を対象とするサービス産業だけでなく、高卒者でも就業可能な製造業を併行して振興することにより、新規雇用を生み出し、貧困削減や海外に流出しているOFW(海外就労者)の帰国を促そうというものです。

 そんな中で、日本の製造業の新規投資に期待が寄せられています。

 幸いにも、昨年の後半、キヤノンやブラザー工業の新規進出とエプソンの工場増設が発表され、プリンターなど事務機器の関連部品産業がフィリピンに進出してくるのではないか、と期待が高まっています。   

 フィリピンは、タイやインドネシアに大きく遅れを取りました。その差を詰めるためには、リチュームイオン電池、LED(発光ダイオード)、太陽光発電など、今後伸びが期待できる新製品群の組み立て企業を日本から誘致する必要があります。次いで、その関連部品メーカーも誘致し、未成熟なフィリピンの部品産業を振興していくのが得策です。

 また、ADBがスポンサーとなり、年内に2万台の電気三輪自動車を導入する計画が進行中です。韓国・中国勢と共に、日本企業グループも競争入札に参加するとみられており、落札できれば、新たな投資・工場建設につながると期待されています。

 おおしま・まさはる 元三菱東京UFJ勤務。1977年三和銀行に入行しニューヨーク、アトランタ、ジャカルタ、バンコック、マニラと通算して海外勤務17年。前回マニラ駐在時(2002〜06年)はリサール商業銀行(RCBC)役員を歴任。10年3月から、国際協力機構(JICA)の専門家として、フィリピン投資委員会(BOI)のアドバイザー。57歳。

 フィリピンに住む読者に役立つ、経済の最新情報を定期的にお届けします。このコラムは原則月1回、第1月曜日の2面に掲載します。

(2012.5.7)

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