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死者と共に過ごす時間 万聖節、南部墓地に15万人

2025/11/3 社会
他人の墓でくつろぐアドビンクラ家=1日午後、首都圏マカティ市の南部墓地で竹下友章撮影

フィリピンのお盆ウンダスのピーク・万聖節で、南部墓地には15万人参拝。死者と時間を過ごす人々に話を聞いた

カトリック教会の万聖節である1日、フィリピンのお盆期間「ウンダス」がピークを迎えた。首都圏警察は同日夜時点で380万人が墓地を訪問したと発表。首都圏の主要墓地の一つである南部墓地(マカティ市)は万聖節1日だけで15万7160人が来訪。10月24日から11月2日の午後1時までに計26万3138人が詰めかけた。

 「ウンダス」とはタガログ語ではなく、スペイン語で栄誉を意味する「オンラス」が由来とされる。万聖節はカトリックの祝日といっても、その日に墓参りをすることは、必ずしも全カトリック国で行われているわけではない。フィリピンのウンダスは、古代アステカ文明時代からあった死者を祭る文化が、メキシコでカトリックと習合して生まれた「死者の日」に由来すると考えられている。タガログ語では「アラウ・ナン・マガ・パタイ」で、そのまま死者の日、という意味だ。

 午前11時ごろ、南部墓地の正門があるサウスアベニューには露天が立ち並び、人々が洪水のように流れていた。露天も特別仕様で、花、ロウソクといった供え物の販売店だけでなく、ピーナッツ、アイククリームといった定番に加えスパムむすびや干しイカ網焼きなど日頃目にしない屋台がある。大手企業も出店し、通信会社のグローブやコンバージがテントでWI―Fiの営業を行い、オートバイ配車大手「アンカス」が無料送迎サービスを呼びかける。はては新興宗教・エホバの証人の信者もスタンドを立てて勧誘に勤しむ。スピーカーを持ち込んで路上で歌を歌うのは、高齢視覚障害者の女性。その募金箱には、ひっきりなしに硬貨が投じられていた。そうした模様を、大手メディアが中継する。

 ▽死者の町

 南部墓地には特殊事情がある。地理的にはマカティ市ベルエア地区にあるが、管轄権を持つのはマニラ市だ。マカティ市創設前の1920年代、当時リサール州の一角だったこの土地をマニラ市が墓地建設のためアヤラ家から取得したという歴史背景からだ。飛び地ゆえ、墓地の外にテントを並べる警察、消防、医療班、災害対策本部などは全てマカティ市だが、ひとたび敷地内に入ると、全てマニラ市に置き換わる。

 25ヘクタールの敷地が碁盤の目のように通路に仕切られ、数十万柱の物故者が眠る同墓地は、まさに死者の町。奥に進めば、祭りの様相の外とは雰囲気ががらりと変わり、木々に囲まれ落ちついた趣になる。墓は立派な建屋付きのものもあるが、大抵の庶民の墓は棺桶を上へ上へと積み上げる方式だ。

 こうも広いと、参るべき一家の墓地の場所が見つからないという問題が出るようだ。今年のウンダスでマニラ市は墓をデータベース化し、検索サービスを提供した。入口近くの仮設窓口では名前と死亡日を記入すれば、墓の場所を教える。マニラ市のモレノ市長が今年から導入したものだ。取材中の記者はそれを知らず、差し出された紙に自分の名前と誕生日を書いて出したら、十数分後に「この故人のお墓は見つかりませんでした」とすまなそうに告げられる。やっと気付き、「すみません、まだ生きていました」と汗顔を抱え立ち去った。

 ▽第二のお通夜

 フィリピンの人々は墓に殺到して何をするのか。みたところ参拝者は、日本での「墓参り」というより、「墓過ごし」とでもいうべき時間を過ごすようだ。

 両親が眠る墓に一族で集まったマリテス・テンプロヌエボさん(マニラ市サンタアナ在住)は「朝9時半に集まり、ロウソクを立てて、心のなかで祈った。特に決まった祈りや儀式的なことはない」と説明してくれた。積み上げられた先祖の棺桶の前のスペースで一族は、まるでピクニックのように手作りのパンシット(焼きそば)やルンピア(揚げ春巻き)、ビコ(もち米のおやつ)をタッパーから紙の皿に開け、それを喫食しつつ、手持ち無沙汰でうろつく子どもたちを眺めて談笑する。記者も誘いに甘えてごちそうになる。ロウソクが消えるまでゆっくりとした時間を過ごすのだという。

 また、路地沿いの墓でくつろいでいた一家、アドビンクラ家に話を聞くと、いま一家が占拠している墓は知らない人の墓で、一族の墓は裏にあるという。ぎゅうぎゅうに密集した墓石と棺桶の間を縫っていくと、最年長のレナルド・アドビンクラさん(57)の母らが眠る、棺桶の塔にたどり着く。没年は1977年。「まさか、マルコス戒厳令期の弾圧で犠牲になったのですか」と尋ねると、「いや、母はガンで亡くなった」と笑った。

 ハイスクールに通うニコール・アドビンクラさん(16)にとってその祖母は、生まれる前に亡くなった存在だ。「生きているときにおばあちゃんには会ったことはないけど、毎年親戚と一緒にここに集まっている」と説明してくれた。「ウンダスはあなたにとってなぜ大事なのか」。この質問には親戚の男の子と目を見合わせ、困り笑いで首をかしげた。レナルドさんは「今日は日頃別々の場所に住んでいる親族が、一緒に過ごす機会だ」と語った。「私たちは5分前に来たばかりだ」と言って、一緒に食事をと何度も誘ってくれたが、気持ちだけ受け取った。

 親族一同が亡くなった祖父母・父母の棺桶の前で、とにかく長い時間過ごすこの習慣は、「年次化された第二の通夜」といった方がイメージしやすいかも知れない。同時に、若い世代にとっては家系図の上にいる祖父母の棺を前に、一族の紐帯を体感的に理解できるという機能もあるようだ。(竹下友章)

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