首都圏マカティ市リトル東京周辺の日本人飲食店事業者らが中心となって4月に立ち上げた「メトロマニラ飲食店協会」(嶋川修三会長)は9日、フィリピン日本商工会議所の藤井伸夫副会頭、リトル東京周辺を管轄する首都圏警察マカティ署第3分署のアラン分署長を招き、会合を開いた。加盟店のオーナーらは8月15日にマニラ市マラテ地区で発生した邦人2人の射殺事件が報じられた後に、マカティ市でも「お盆明けとして過去最低」というほど客足が激減していたことを共有。治安向上だけでなく、過剰に不安があおられている状況への対応を議論した。
▽3カ月事件なし
会合に参加したアラン分署長は全体の状況として「殺人、強盗、性的暴行などの8重犯罪の件数は減少しており、一方で検挙率は上がっている」と指摘。「警察は警備強化の取り組みの一貫として、このエリアに常駐しており、第3分署管轄区では過去3カ月(拳銃強盗は)発生していない」と報告した上で、同協会に対し、「フォース・マルチプライヤー(警察力の増幅組織)として、情報交換や詰め所提供など、様々な方法で治安維持に協力してもらえれば助かる」と連携の深化を申し入れた。嶋川会長(レストラン「うな吉」オーナー)は、「昨年10月から断続的に続いている邦人を狙った拳銃強盗に対応するため、警察への必要物資の提供や、邦人被害者の被害届代行などの取り組みを計画している」と説明した。
またアラン分署長は「過去より治安が改善していることは間違いないが、近年は皆がスマートフォンを持っていることで、個別の事件が可視化されている」と指摘。「情報が増えることにより、犯罪捜査も進みやすくなったが、かつてより安全になったにもかかわらず恐怖心が拡大しやすい」とし、正負両面あることを説明した。
同分署長は、4月30日にマカティ市サンイシドロで報告された「発砲を伴う拳銃強盗」事件を担当した人物。強盗被害者を自称する邦人男性が警察に駆け込み、5月2日に大使館領事メールで在留邦人に通知されたが、警察の入念な捜査の結果、男性の証言が真実であれば確保できるはずの第三者の証言や客観的証拠が出なかったほか、発砲された際に負ったという肘の擦過傷にやけどが伴っていなかったなど、実際に弾丸がかすればできるはずの傷とかけ離れていたことから、「狂言」と推認された事件だ。直接男性の滞在先を尋ね被害届(刑事告訴状)の提出を求めたものの拒否されている同分署長は、「こういうこともあるからわれわれは事実確認を重視している。こうした事実も認識してほしい」とした。
▽過剰な「コンプラ」
比在住25年の藤井副会頭は、「日本の本社はコンプラ(コンプライアンス=法令順守)を言い過ぎ」と指摘。「僕にとっては年に2~3人日本人が殺されるのが普通だったから、昔より安全になっている。会社が門限を課すというような反応は過剰というのは同感だ」と加盟店オーナーらに寄り添った。
その上で、「首都圏17市町あるのに、一部の歓楽街で深夜に歩いていた日本人が強盗に遭ったら、まるで首都圏全体が危ないかのように受け取られてしまう」とし、大使館や大手メディアの注意喚起の方法に問題を提起。一部の危険なエリアや深夜の徒歩移動を避けるなどの適切な注意を払いながら、「外食やカラオケも楽しむくらいが健全ではないか」との考えを示した。
また、嶋川会長は「SNS発信者や動画配信者もこぞってメトロマニラが危険地帯であるような発信を行って、フォロワーを増やそうとしている」と指摘。「中には狂言と疑いたくなるような内容もある。ことさらフィリピンのイメージを悪くしてアクセス数を稼ごうとする人たちを何とかしなければ」と危機感を示した。
マカティ署は公式フェイスブックで「フェイクニュース(虚偽情報)の拡散はサイバー犯罪防止法に基づき改正刑法154条(出版・発言手段の違法利用)に抵触する」と警告。罰則は「1カ月1日~6カ月の拘禁刑、4万~20万ペソの罰金」となっている。(竹下友章)