ドゥテルテ前大統領に対する国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)での訴追について、大統領府のカストロ報道官は27日、証人の保護やハーグへの渡航について「支援を提供する」と述べた。それに先立ち、レムリヤ司法相は25日、ICCと司法省が公式会合を持ったことを明らかにした上で、「この要請は証人が安全にハーグに渡航する十分な必要性に基づく要請であり、支援と協力を提供する旨伝えた」と述べていた。英字紙マニラタイムズなどが報じた。
サラ・ドゥテルテ副大統領への弾劾に後ろ向きな姿勢を見せて和解を呼びかけながら、新国家警察長官にドゥテルテ前大統領を逮捕したトーレ氏を抜てきするなど、ドゥテルテ家と「和戦両様」の構えを見せる大統領だが、前大統領への「人道の罪」に関する訴追については、「ICCは比国内に管轄権を持たない」「ICCに協力しない」との立場を事実上形骸化させ、ICCによる訴追を支援する方針を一層明確にした格好だ。
レムリヤ氏はまた、証人はハーグに渡航する資金を持たないことから、当事者については渡航費を政府が支援する方針も提示。それについて、被害者遺族の支援に当たるICC登録弁護士のクリスティーナ・コンティ氏は「うれしいサプライズだ」と歓迎。「政府による保護なしでは名乗り出ることをためらっていた当事者たちに、名乗り出る勇気を与える」とした。
カストロ報道官はレムリヤ氏の決定に補足説明するかたちで、「ICCに直接協力するわけではない」と指摘。「ICCだけでなく、他の国際法廷であっても、司法省は比人証人の保護を行う準備ができている。政府の優先順位は、正義の実現のために保護と法的支援を必要としている比国民を助けることだ」とした上で、「ICCへの『間接協力』とも言い得る」と述べた。
カストロ報道官は19日には、フィリピンがICCに再加盟する可能性について「マルコス大統領はオープンだと言っており、既に議論を始めている」と明らかにしている。
比政府はドゥテルテ政権期、麻薬撲滅政策(麻薬戦争)に伴う「超法規的殺害」問題についてICCが予備調査を開始した直後に脱退を表明し、19年に正式に脱退。今年3月にドゥテルテ氏を逮捕した際、大統領は「国際刑事警察機構(インターポール)への協力義務を履行したのみで、ICCには協力していない」と説明していた。(竹下友章)