首都圏マニラ市の港湾地域に位置するバセコにたたずむ、青い小さなモスク。モスク内に設置された教育機関「マドラサ・ダルサラーム」は、ムスリム(イスラム教)の子供たち125人に、無料教育を実施している。5歳から20歳までの生徒が八つの学年に分かれ、イスラム教に関する科目を学ぶ様子をまにら新聞が取材した。
児童・生徒らは平日は通常の学校に通い、土曜日と日曜日にマドラサで学んでいる。授業はフィリピン語で行われ、聖典コーランやアラビア語など宗教に関する知識のほか、数学や物理も学ぶ。学校には5人の教師が在籍し、ムスリムの多いミンダナオ島出身者のほか、同校の卒業生もみられる。平日はコールセンターなどで働く教師もいるという。
校長のアロント・ブアランさんは、「イスラム教の美徳を子供たちに教えられるのは本当にうれしい」と話し、カトリックとは異なる文化を教育する意義を見出していた。また、「どんな信仰を持っていても、同じ人間同士互いに尊重しあい、ひとつの共同体になれたら嬉しい」と話した。
▽マーチングを披露
授業の最終時限にもかかわらず、まにら新聞の取材日には約60人の生徒が集まり、アラビア語の号令に合わせたマーチングを披露してくれた。マーチングでは教師が号令に合わせ、全員で掛け声をそろえて足踏みをする。生徒たちは元気にアラビア語を唱えながら、日本の運動会のように統率のとれた動きを見せてくれた。
また、日常的な礼拝を呼び掛けるアザーンや、ミンダナオ地方のムスリムに伝わるモロ民謡を生徒が披露。新しく入ったばかりの生徒には、生徒同士で教えあっていた。
マドラサでの好きな活動を生徒に質問すると、アラビア語の書き取り、コーランの学習、マーチングを楽しんでいると答えた。マドラサに欲しい設備をたずねると、全員一致でエアコンだった。将来については警察官、消防士など、それぞれの夢を語っていた。
▽学校の課題
同校は教育省未認可であるため、補助金が支給されていない。寄付で運営費を賄っているものの、学習環境の整備が遅れているほか、教員がボランティアに近い状態で働かざるを得ない状況が続いている。2024年には、ミンダナオ地方のマドラサに教育省の認可が下りた事例があるため、同校は認可取得に向けた準備を進めている。(宇井日菜、新谷遼華、石田夏鈴)
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マドラサ・ダルサラームは、ホワイトボード、エアコン、扇風機、机、椅子など、学習資材の寄付を募っている。問い合わせは、同校幹部のダトゥ・リャンさん(0992・337・1527)まで。