マルコス大統領が7月の施政方針演説で打ち出した、治水事業を中心とした公共事業の不正を徹底的に追求し、議会が政府予算案を変更した場合前年予算の再執行も辞さないという強硬方針が、マルコス政府と下院与党との蜜月関係に亀裂を生じさせはじめた。
「内閣は、自身の腐敗と失敗の責任を行政府に転嫁しようとする下院の一部議員によるわい曲情報に強く反対する。行政府の名誉を攻撃し、政治劇を演じることにより予算を人質に取ろうとするいかなる試みも容認しない」。ベルサミン官房長官は6日、異例の強い言葉で下院への非難声明を発表した。その中で、「『汚職の根源』がチェックされなければ問題の調査は失敗に終わる。まず下院自身を浄化せよ」とし、下院を汚職の根源と指摘した。
ベルサミン氏は「一部下院議員」の個人名まで触れなかったものの、明らかにその批判の対象となっているのは、与党連合の一角・国民統一党(NUP)の名誉党首で、下院副議長のロナルド・プーノ氏=元内務自治相=が率いる下院役員グループが求める「政府予算案差し戻し」の訴えだ。
プーノ副議長は3日、与党系の副議長2人、委員長3人とともに会見を開き、「政府予算法案(NEP)に問題のある条項が複数ある」とし、NEPを予算管理省に差し戻すことをロムアルデス下院議長に勧告したことを報告した。
その際、2026年の公共事業道路省予算案に、完了した事業への予算配分があることが分かったと報告。「同様の問題は、他の省庁にもあった」と述べた。また、来年の内務自治省予算案の中に80億ペソの銃器購入費という「巨額」予算が盛り込まれていたと指摘し、ベラリアノ公的秩序安全委員長に調査を指示したと発表した。
同副議長は「この予算案には複数回の修正が必要となる。しかし、それで議会が不正を疑われたり、予算管理省の方針に逆らっていると思われたくない。これでは予算審議できない」として、政府予算案を差し戻すことを主張した。
マルコス大統領の問題提起を機に浮上しているのは、議員が建設請負業者や当局役人と癒着し、不正に蓄財する構造が存在するという疑惑だ。各自治体の選挙区を地盤とする下院議員は、利益誘導の疑いの的となっている。そうした中、政府案通りに予算を通したい政府側に対し、政府案の「アラ」を指摘しやり直しを求めることで、抵抗する構えを見せたととれる構図だ。
プーノ副議長とともに予算案差し戻しを主張したのは、ジャネット・ガリン副議長=与党ラカスCMD、エフゲニー・エマノ副議長=与党ナショナリスタ党、ウィルフリド・エンベルガ農務委員長=同、エレアンドロ・マドロナ観光委員長=同、ホセ・アルバレス下院エネルギー委員長=同。(竹下友章)