治水事業を巡る政府・議会を挙げた不正追及のなか、新たに就任したディゾン公共事業道路相(前運輸相)は就任初日の1日、次官級から地方局長、技術職を含めた約400人の公共事業道路省職員に儀礼的辞表の提出を命じた。同相は会見で「大統領の命令は、内部を一掃すること、組織を浄化することだ。徹底的に掃除することだ」と強調した。新大臣は、提出された辞表を受理するだけでいつでも事実上の解雇ができるようになる。
5月の中間選挙で対立するドゥテルテ陣営の伸長を許したマルコス大統領は、7月の大統領施政方針演説で豪雨の度に発生する冠水・洪水問題が大きく改善しない原因として治水事業の不正問題を指摘し、その追及を宣言。以降、議会での追及も始まり、実態のない「幽霊事業」の存在が明るみになるなど、「官制汚職追及」のやり玉に挙がっている。
大統領府で会見を開いたディゾン氏は、「公共事業道路省内部には優れた人材が多くいると信じている。大統領の指示は、彼らを重要ポストに抜てきすることだ」として職員に「あめ玉」をちらつかせた一方、「幽霊事業の存在は、省内の人物の関与や過失なしには起こり得ない」と指摘。「賄賂(わいろ)を受け取った人物も必ずいるはずだ」と明言した。
また、幽霊事業の請負業者については「二度と受注できないようにブラックリストに入れ、告訴も行う。ライセンスの剥奪も検討している」と徹底した責任追及を行う方針を示した。
▽「大ナタ」吉と出るか
2月に運輸相に抜てきされてから数カ月で首都圏の鉄道の運行時間延長、首都圏鉄道3号線(MRT3)改札への電子マネー・グレジットカード利用の導入や新システム導入を通じた全持ち物X線検査廃止による利便性の向上など、短期間に国民の目に見える成果を出したことで、「仕事ができる人物」との評価を得たディゾン氏が、組織改革に乗り出した。
しかし、同様の経緯で国家警察長官に任命され、3カ月も経たずに解任されたトーレ前長官の例は、「改革」の成否に暗い影を落とす。マルコス大統領とも昵懇(じっこん)のトーレ前長官は、6月に任命されるや首都圏や主要都市で「通報5分内現地到着」というルールを実行するなど、体感治安の改善を急速に進めた。その中で、同基準を満たさなかったなどとして首都圏各市の警察署長の半分を解任するという人事権を振るったが、その性急な人事権の行使で警察を所管する国家公安委員会と対立し、就任3カ月を経ず解任。後任は自身が左遷したナルタテス元副長官が選ばれた。
大統領の後ろ盾があっても、大胆な人事権の行使による「組織改革」の試みが自分自身の地位を脅かす前例ともいえる結果となっている。(竹下友章)