マルコス大統領は4日午前、国賓としてのインド訪問に出発した。比大統領によるインドへの国賓訪問は2007年のアロヨ元大統領訪印以来約18年ぶり。出発前の演説でマルコス氏は「防衛、貿易、投資、保健、医薬品、コネクティビティー(接続性)、農業、観光など共通の利益分野に関する共同計画を策定する」と述べた。外務省の発表によると、今回の訪問には、ラザロ外務相、ロケ貿易産業相、ゴー投資・経済担当大統領顧問、テオドロ国防相が同行し、6件の政府間合意が結ばれる予定だ。
大統領率いる比代表団は、首都ニューデリーのほか、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロールを訪問。ムルム大統領、モディ首相との会談のほか、IT企業のリーダーらと面会する。
大統領は「IT部門のリーダーたちと会い、双方の潜在的な投資機会を探る」とし「安価な医薬品や、食料安全保障、交流といった具体的な利益を国民にもたらしたい」と意気込んだ。また、今年インドが国内総生産(GDP)で日本を抜く見込みであることを念頭に、「世界4位の経済大国との貿易・投資の機会を活用することはわれわれの責務だ」と強調した。
▽共通の価値・海洋利益
マルコス氏は「フィリピンはアジア最古の立憲民主主義国であり、インドは大陸最大の民主主義国」と述べ、「両国は民主主義の理想、基本的自由の尊重、国際社会におけるルールに基づく秩序の維持など、中核的利益を共有する」と指摘。また、「インド太平洋地域で最も交通量の多い貿易ルート・重要シーレーンに接する沿岸国としての地政学的立場、船員の権利・福祉の保護に対する共通の利益、国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際海洋法の順守に対する確固たる姿勢、そして地域の平和と協力に対する揺るぎないコミットメントは、活発かつ拡大する海洋協力の信頼できる基盤となっている」と述べ、価値と地政学的条件の共通性を強調した。
フィリピン第1共和制(アギナルド初代大統領)の下で1899年に発布されたマロロス憲法は、オスマン帝国のミドハト憲法(1876年発布)、大日本帝国憲法(1889年発布)に並ぶアジア最古の近代憲法となっている。またインドは、2021年に比・中に次ぐ世界3位の船員供給国となり、23年にはUNCLOS支持の姿勢を打ち出している。
▽「マハルリカ」はサンスクリット
大統領は演説冒頭で、「インドとは植民地時代以前から互恵的な交流を続けてきた。比文化はインド文明との歴史を通じた交流によって豊かとなり言語、文学、習慣、民間伝承にも影響を与えた」と文化的つながりを強調。「古代タガログ社会で戦いでダトゥ(王)に仕える義務のある自由人階級を表す『マハルリカ』はインドの古典語であるサンスクリット語由来だ」と一例を挙げた。
マハルリカは故マルコス元大統領が自身が率いた抗日ゲリラにつけた名称。同大統領は、比の国号をスペイン王フェリペ2世にちなむ「フィリピン」からマハルリカに改名しようとしたことがある。その名称は、長男である現大統領の政権となって23年に設立された政府系ファンドの名称となった。
2020年の国勢調査によると、比のインド系の住民は2万3464人で、中国系に次いで多い。(竹下友章)