マニラ湾に寄港中の護衛艦「いせ」(197メートル)艦内で23日、自衛隊創設71周年記念式典が開かれた。同式典はこれまで大使公邸で開かれていたが、今年は「ヘリ空母」として知られる同艦で開催。防衛協力の深化を象徴する式典となった。比からはアニョ国家安全保障担当大統領顧問、ブラウナー国軍参謀総長、日本からは遠藤和也駐比日本国大使、海上自衛隊第4護衛隊群司令の夏井隆海将補があいさつし、自衛隊の71年の歩みを祝すとともに、比日部隊間協力円滑化協定(RAA)締結後の比国軍・自衛隊間の協力強化に期待を表明した。式典には、ロレンサナ元国防相(23年旭日重光章受章)や、トレンティーノ上院議員、マルコレタ次期上院議員ら国会議員、各国の外交官・駐在武官も合わせ、約250人(登録数ベース)が出席した。
式開催に際し、遠藤大使は艦内で会見を開いて比日メディアに対応。「西フィリピン海(南シナ海で比が権益を主張する海域)で『攻撃的行動』を行う中国への対応にあたって、日本はどのようにフィリピンを支援できるか。自衛隊は同海での抑止強化のためにプレゼンスを強めるか」との質問に、大使は「南シナ海問題は地域の平和と安定に直接的に関係し、国際社会の正当な懸念事項。日本はいかなる一方的な力による現状変更の試みにも、南シナ海における緊張を激化させる行動にも反対する」と強調。「比はシーレーン(海上交通路)を共有し、類似した戦略的課題に直面する、地域の平和と安定のために重要なパートナーであり、共に航行の自由や主権尊重の原則の重要性を認識している」とした上で、「こうした共通のビジョンを実現するため、日本は海上共同活動(MCA)に既に8回参加しており、また数日前には比日米3カ国の海上保安機関が、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序を守るため日本で共同訓練を行った」と説明。「海洋安全保障能力を着実に高めながら、国際法に基づき紛争を平和的に解決する重要性も強調したい」とした。
また、2012年に中国が比から実効支配を奪取したサンバレス州沖のパナタグ礁(英名スカボロー礁)の領海付近で20日に発生した、中国海警局の大型巡視船による比公船に対する放水砲発射事件についてのコメントとしては、「繰り返し発生している嫌がらせや、放水砲の使用を含む行為を懸念している。2016年仲裁裁判所判断を尊重することが重要だ」と指摘。同裁判所は領有権問題に関する管轄権は持たないものの、同礁について比などの漁民が持っていた「伝統的漁業権」を認め、それが中国に侵害されているとの判断を下している。
「4月に石破首相が訪比した際に両首脳が交渉や議論の開始で合意した『物品役務相互提供協定(ACSA)』、軍事情報保護協定をマルコス政権中に署名できるか。また、自衛隊法95条が規定する外国部部隊の武器等への防護(武器等防護)の比国軍への適用や、首脳間の安全保障共同宣言といった、さらなる協力枠組みを、豪州に続き比との間にも持つ考えはあるか」との質問には、「マルコス大統領の強いリーダーシップの下で、協力が増していることは事実。さらに両国関係を強化すべく引き続き努力したい」と回答。その上で、「二つの重要協定の交渉や、その先の具体的な行動について予断することは控えたい」とした。
RAA発効後に控える今後の防衛・安保協力については、「RAAは部隊間の共同訓練や『その他の協力活動』を促進し、相互運用性を高める。具体的な計画は発効後に議論される必要があるが、日本としては比日間の防衛・安保協力を一層強化することを希望している」とした。また、防衛装備の移転(輸出)やOSA(政府安全保障能力強化協定)を通じた比国軍の近代化支援にも引き続き尽力する。安保環境が変化するなか、日本は特に比のように戦略的な場所に位置する同志国との連携をさらに強化する意思を持っている」と強調した。(竹下友章)